――さきほどセカンドオピニオンの話がありました。別の医師を探すことについてはどのように考えますか?
父自身も医師でしたが、最初に入院した病院から転院はしませんでした。治療としても金額としても特別なことは何もしませんでした。スタートの段階で治療内容に、あまり差はないと思います。「標準療法」は、患者の人種、年齢、生活習慣・持病などの各種リスク要因、ステージなどの条件で機械的に決まるものです。基本的な治療内容が決まったあとに本人の要望や経過によって修正や最適化をしていきます。一般的に「名医」と呼ばれる医師は、その修正や最適化といった過程において、パーソナライズに差が出てくるのだと思います。ただ有名な医師や医院だからといって自宅から遠いところに転院するのはおすすめしません。患者本人もご家族も通院するのは本当に大変なので、できるだけ通院で負担をかけない方がよいと考えます。
――そのほかに本人や家族が事前に話し合うべきことはありますか?
延命治療を望むか否か、ではないでしょうか。具体的には胃ろうや人工呼吸器、人工肛門などについては人それぞれ、受け入れられる人・嫌な人がいます。ここはご本人の「価値観」に関わる問題です。同時に、とても生々しい話ですが、最期に会いたい人たち、または会いたくない人たちなども伝えておくべきだと思います。家族以外からのお見舞いや連絡もあるでしょうが、対応するのは家族なので早々に伝えておかなければ、自分の意思に反する対応を取られてしまいます。ましてや意識がない場合には、なおさらです。金銭面に関しても、本人がどういう保険に入っているか、いくら資産を残しているのか把握していないと滞ります。日本人は親子間で「お金」について話すことに消極的なところがあると思いますが、それは非常にもったいないことだと思います。少しでも時間がほしい時期に無駄な時間を労してしまうことになります。昨今ではエンディングノートや生前葬なども話題になっています。残された家族関の気持ちの整理や関係性にも影響を与えてしまうので、事前に意思表示をしておく方が良いと考えます。
ここまで述べたように、納得のいく最期の迎え方や治療法などは、事前に必要な知識や資産状況などを知り、話し合いをしておけば、大抵は円満に行くはずなんです。でも、こうした話題を後回しにすると、家族間でもめたり、時間を浪費してしまう。それはそれは本当に残念なことです。私も家族から非難された経験もあります。事実、発言に配慮が足りなかったと反省する部分もあります。死が近づくなかで「時間」は本当に貴重で取り戻せないものです。ありきたりな言葉ですが、皆さんには「がんになってから考えるのでは遅い」と心から伝えたい。次に家族が集まるタイミングで、話をされてみてはいかがでしょうか。
(AERA dot.編集部)
◆プロフィール
いぬい・まさと/医師・医療コンサルタント。静岡県出身、35歳。洛南中学・高校卒、東京大学医学部医学科卒。外科専門医。研修医時代から医療コンサルタントとして経営・会計分野で多様な実務経験を積み、2016年に法人化。現在、医院経営や各種企業のコンサルティングを行う。