――では、もし家族が「末期がん」と診断されたとき、まずは何を考えるべきでしょうか。
がんには「標準療法」というガイドラインがあります。一般のイメージでは「標準」というと「普通」と捉えてしまって、「なにか他に特別な治療があるのでは?」と思われがちですが、それは誤解です。「標準療法」は何百万人の人々のデータからなる科学的根拠に基づいた治療法で、がんの種類や進行の程度にふさわしい標準治療が提示されます。まずは「標準療法」を把握することが大切だと考えます。「標準療法」は全ての議論のスタート地点に立つものなので、逸脱するにはかなりの根拠が必要になります。セカンドオピニオンを求めるのも良いですが、そこで「他の治療法はないか」と自由診療領域でウルトラCを探す道に踏み出すと「時間のロス」を招く可能性を考慮してください。青い鳥を探すあまり、「標準療法」を開始する時間を遅らせてしまうものは、あまりおすすめできません。
――治療には時間だけでなくお金も重要な検討要素ですね。
治療方針を決定するときは、「標準療法」を踏まえたうえで、かかる「時間」と「お金」を整理しておくべきでしょう。「その時間があったら家族で過ごす時間がもっと持てた」「最後に旅行に行けたかも」という考え方もあるので、「いくらまでならば割り切れるか」「どれくらいの時間なら納得できるか」を一度考えてみてください。個人的には、身体的に、金銭的に、時間的に、負担や代償が少ないことから優先的に検討するのが良いと思います。
――「緩和ケア」に移行するタイミングについてはいかがでしょうか?
一般的に遅いと言われています。日本緩和医療学会が医療従事者向けに実施している「緩和ケア研修会」によると、末期がん患者が「緩和ケア」を開始するのは「平均して1カ月遅い」と言われているそうです。原因は、医師や患者本人だけでなく、家族を含めた判断になるため、調整する要素が多いからです。現場でも少なからぬ医師から「もっと早く移行しておけばよかった」という声を聞きます。医師自身「緩和ケア」の提案を切り出しにくい心理状態にあるなかで、家族の意思決定はもっと遅れてくるわけです。まずは、本人に意思決定ができないときにどうするかの「価値判断」を健康なうちに家族で話し合って決めておくことです。とくにステージIVの場合には、勇気をもって「緩和ケア」を現実的に話し合うことを提案したいです。
――その勇気があったとして、主治医に切り出すタイミングはいつが適切なのでしょうか?
家族間で「緩和ケア」という選択肢を検討したのであれば、積極的ではなかったとしてもいったんは温度感を伝えておくのが大切です。「ステージIV」と診断された段階で「緩和ケア」へ移行するタイミングを尋ねるとよいでしょう。患者本人や家族がその単語を出すことで主治医は提案がしやすくなります。主治医は往々にして治療しようしますし、医師の心理として切り出すタイミングをうかがったり、家族がそろうタイミングを見計らったりする過程で、診断から切り出すまでにタイムラグが生じてしまうこともあります。
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