カーティス:産前産後はホルモンバランスが変わるとよく聞きますが、そのあたりも産後うつ病に関係していますか?
小野医師:産前産後は女性ホルモンの分泌量がジェットコースターのように激しく増減します。おそらく、それが産後うつ病に関与していると考えられています。そういう時期には、あえて環境の変化を作らないほうがいいと思います。子どもが生まれるタイミングで引っ越したり、親と同居を考えたりするケースは多いですが、そういう方は感情の変化が大きい。プラスになると思ってやったことがマイナスに働くこともあります。
カーティス:コロナ禍で「産後うつ倍増」という報道を目にしました。実際はどうなのでしょうか?
小野医師:現場の感覚では増えていると思います。産後女性のオンライン相談サービスで、産後うつ病のスクリーニングツールを用いた結果では、産後うつ病のハイリスクとなる方が産後1年を通じておよそ35%と高い値でした。この数字は、対面での診断で最終的に産後うつ病と診断された割合ではありませんし、他にも色々と考慮する点はありますが、日本の産後うつ病の有病率が10%程度ということを考慮すると、増えている可能性はとても高いです。そして、産後直後だけでなく産後から半年、1年経過してもうつ病には注意が必要であることがわかります。海外のデータですがコロナ禍で妊娠、出産をした女性を対象に追跡調査した結果を見ても、不安や抑うつ症状のレベルは優位に上昇しています。「COVID-19が母体と赤ちゃんの生命を脅かすこと」「必要な出生前ケアが受けられないこと」「人間関係の緊張」「社会的孤立」などが原因として挙げられています。実家の親にも会えず、ひとりで頑張っているママも多いですね。
カーティス:専業主婦のママはもちろん、育休中のママもコロナ禍で友達とも会えず、孤立を深めているのではないかと感じます。産後うつ病予防のためにできることはありますか?
小野医師:ママの負荷を減らすことです。赤ちゃんの命を守るために必要なこと以外はできるだけ手放して身軽になったほうがいい。極論をいえば、オムツ交換もミルクも、母乳以外の育児は誰がしたっていいんです。家族の手が借りられないなら、市区町村の行政サービスが主催している家事代行やファミリーサポートを検討してもよいと思います。経済的な面を考慮して、行政が提供しているもので使えるサポートはないかを調べ、妊娠中から資料を取り寄せて、申請の準備をしておく。赤ちゃんがいると、書類ひとつ書くのもとても大変ですから、出産前にある程度準備するといいですね。