「コンビニ百里の道をゆく」は、51歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
【写真】店内厨房で調理した商品がずらりと並ぶローソン店舗の売り場
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店内のキッチンでお弁当やサンドイッチ、おにぎりを提供する「まちかど厨房」に力を入れています。炊き立てのお米や揚げたてのカツがおいしいとお客様にもご好評いただいています。
「まちかど厨房」では、専用のキッチンがあるお店で商品を調理、盛り付けしています。工場でのライン確保が不要で、新商品の開発もスピーディーなのが強みの一つ。最近では、串カツ田中さんやとんかつ まい泉さんとのコラボ商品も販売し、売れ行きは好調です。
10年前は41店舗しかなかった店内厨房も、今や全国6401店舗に拡大。きっかけとなったのは、東日本大震災です。ロジスティクスが寸断され、物流は停止。ローソンの弁当工場も稼働できない日々が続きました。
厳しい状況が続くなかで、温かいものを届けられないか。当時の東北支社長が旗振り役となって、厨房のある店舗にお米やお水を調達。塩おにぎりを作り、提供しました。たった一つのおにぎりでも、パワーが出るものです。
その後も、地震や洪水などの災害でインフラが止まったときには、店内厨房が活躍しました。現在コロナ禍でまちかど厨房が好調な背景には、温かみを感じたいという心理がお客様のなかにあるのかもしれません。
コンビニエンスストア業界はエッセンシャルワーカーと言われることもありますが、人間らしい暮らしを送るためには、すべての仕事が欠かせないものです。
今お店を開け続けていられることに感謝の思いを持ちながら、平時にも有事にもその時々の便利さで生活を支え、ほっと一息つける拠点であり続けたい。
まちかど厨房は今後も拡大を予定しています。どんな状況であっても、街のインフラとしての役割を最大限に発揮できるよう、強化を進めていきます。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2021年3月15日号