佐々:ある事件の取材に行くと、何時間も前から遺族の家の前にたくさんの記者が詰めかけて、遺体の到着を待っていました。記者さんはどんな風に書いたのだろうと次の日に読んでみると、どの新聞も行数から中身までほとんど同じでした。それなら一人いれば十分かなと。定型文に流し込むだけならいずれAIにとって代わられる。

三浦:メディアは今、大きな転換点にあるんだと思うんです。今まで僕らが信じてきたやり方というか価値観というのが、足から砂が崩れていくように失われていく。SNSというものがどんどん世の中で発達してきて、誰もが自由に気軽に情報を発信できるようになって、メディアがどういう役割を果たせばいいのかわからなくなってきている。メディアの中には、警察や官庁の記者会見を独占して、これまでのように情報の既得権益を守って生き抜いていこうとする人もいるけれど、僕は記者個人が取材力なり文章力なりを必死に磨いて、「この人の書いた原稿なら読みたい」と思ってもらえるファンを1人でも多く増やしていくしかないと思っている。それが力にもなるし、「下手な記事は書けない」というプレッシャーにもなる。振り返って思えば、『災害特派員』はそんな僕の決意のすべてを詰め込んだ本でもあったような気がしています。

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