ヤフーの川辺健太郎社長(左)とLINEの出澤剛社長が、新生Zホールディングスの共同CEOとして舵取りを担う/1日、東京都内 (c)朝日新聞社
ヤフーの川辺健太郎社長(左)とLINEの出澤剛社長が、新生Zホールディングスの共同CEOとして舵取りを担う/1日、東京都内 (c)朝日新聞社
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 ヤフーを傘下に持つZホールディングス(HD)とLINEが経営統合し、日本を代表する巨大企業となった。しかしユーザーにとってはデメリットが生まれる可能性もある様子。その巨大さゆえの課題も見える。AERA 2021年3月15日号で取り上げた。

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 利用者にとって統合がデメリットになる可能性があるのが、ニュースサービスだ。公取委の調査によると、ヤフーニュース、LINEニュースとも国内のニュースサイト利用者の60~75%に利用されているほどシェアが高い。

 ニュースサイトは、過去の閲覧傾向をもとに利用者が好む記事、関心のある記事が多く配信される仕組みとなっている。両サイトの運営会社が同じグループとなることで、読者の関心が狭められる懸念がある。

 ヤフーの川辺健太郎社長は1日の事業説明会で「ニュースの統合は予定していない」としたが、日本新聞協会は同日、両社の統合は「巨大な国内ニュースプラットフォームの誕生を意味する」とし、ネット空間における言論の独占への懸念などの課題を指摘する声明を発表した。

■競合事業の再編が課題

 ZHD自身が、その「巨体」ゆえに直面する課題もある。

 3月4日、PayPayが大幅なアップデートを行った。新たに加わったのは、メッセージ機能。スマホ決済とメッセージというサービス構成はLINEと同じで、経営統合早々に、グループ内で新たな競合サービスが生まれたことになる。

 グループ内での競合は前出のニュースをはじめ、枚挙にいとまがない。ZHDはもともと傘下にジャパンネット銀行を持っている一方、LINEもみずほ銀行と提携して「LINE銀行」設立の準備を進めるなど、今のところ急激にサービスの統合を進める考えはないようだ。

 背景にあるのは、すでに一定程度の利用者がいるサービスを統合すると、利用者が減ってしまうという懸念だ。そのため、まずは不人気なサービスを中心に統合が進むとみられる。

 だが本当に求められるのは、統合の結果、利用者にとってかつてない価値が生まれるような新サービスだ。今後、LINEでプロダクト戦略を担当してきた、慎ジュンホ氏を中心とした「プロダクト委員会」が統合・再編戦略を進める。先行するスマホ決済の統合が、今後を占う試金石となりそうだ。

 川辺社長は「ユーザーに意味のある統合にする。新サービスに期待してほしい」と語るが、そもそもヤフーもLINEもすでに大企業となり、次々に新サービスを生み出す勢いには欠けてきたようにもみえる。

「近年、成功した新サービスはPayPayぐらいしかない。新入社員も最近は型にはまった高学歴の人が増えた」

 ヤフー関係者はそう肩を落とす。経営統合の成否は、新たな化学反応で再びイノベーションを活性化させることができるかどうかにかかっている。(ジャーナリスト・出野直玲)

AERA 2021年3月15日号より抜粋