自宅ソファからスマホ片手に参加でき、いつでも自由に退室できる。リクルートスーツに着替える必要もなければ、つまらないと感じた説明会に拘束されることもない。オンラインかつ音声だけのメリットといえよう。
■口癖で「企業風土」発覚
「情報が不透明だったキャリア領域に、変化が起きています」
そう指摘するのは、新卒採用サービスを手がけるワンキャリアPRディレクターの寺口浩大さん(32)だ。クラブハウスには、就活の採用ページや動画などにはない企業の性格が見えるという。
「企業が採用のために外に出していたコンテンツの多くはお金を払った広告だったり、社内で何度も編集を重ねたもの。ですが、個人が声で発する言葉はそれができません。内容だけでなく、声の大きさや抑揚、間の取り方など音声ならではの情報量の多さが特徴です」(寺口さん)
話す相手によって態度や声のトーンが変われば、リスナーはそれをつぶさに感じ取る。たとえば、誰かを指すときに「上」「下」と言い放ったり、「若いのに」「女性でも」などと属性でくくったり。何げないそんな口癖から、人間性や企業風土までも推測され、NG企業の烙印を押される可能性もある。音声ならではの生々しさともいえる。
1年を超える自粛生活が続き、大学に入れず、卒業生名簿を見ることもままならない。ましてや企業や社会人とも接点が持てない──。足踏みせざるを得ないそんな学生たちを、クラブハウスでサポートする大人もいる。
コンテンツプロデューサーの笠原大輔さんは、週2回のペースで就活生や若手社員を対象にした部屋「話す練習場『ちるてれ』」を開いている。参加者は毎回10人前後と少人数だが、手ごたえを感じている。笠原さんは言う。
「様々な制約がかかるなかで、若い世代はいろいろなことを我慢しています。大学にも行けず、家族以外の大人と話すという他の世代が当たり前にできていたこともままならない。少しでもチャレンジできる環境を作りたいという思いです。クラブハウスは音声のラグが少ないので、コミュニケーションに大切な相槌力をつけるのにも相性がいい」
企業動向を探ったり、普段話せない人と対話したり。学生にとって、クラブハウスは渡りに船だったわけだ。(編集部・福井しほ)
※AERA 2021年3月15日号より抜粋