韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と南北首脳会談を行った金正恩氏(右)と李雪主氏/2018年4月27日、韓国の板門店(Korea Summit Press Pool/gettyimages)
韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と南北首脳会談を行った金正恩氏(右)と李雪主氏/2018年4月27日、韓国の板門店(Korea Summit Press Pool/gettyimages)
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 北朝鮮でも国際女性デーに、女性をたたえるニュースが流れた。だが、北朝鮮の女性をめぐる環境や地位は実際にはどうなっているのか。AERA 2021年3月29日号で取り上げた。

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 3月8日は国際女性デー。同夜、北朝鮮の朝鮮中央テレビは23分余の放送時間中、約20分を「国際婦女節」のニュースにあてた。様々な職場で活躍する女性の姿、花束を渡してたたえる同僚の男性たち。北朝鮮では最近、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記の妻、李雪主(リソルチュ)氏や実妹の金与正(キムヨジョン)氏、崔善姫(チェソンヒ)第1外務次官ら女性の活躍も目立つ。だが、様々な資料や証言をたどると、「男目線」で作られた、偽りの男女平等の世界が浮かび上がる。

■女性は大事な労働力

 北朝鮮は建国前の1946年、「男女平等権法」を制定した。日本統治から解放した祖国を「地上の楽園」に変えるべく、女性の選挙権や被選挙権などを保障し、社会主義の優越性を説く根拠の一つにした。

 確かに、北朝鮮では多くの女性が社会進出を果たしている。北朝鮮では各世帯で最低1人以上が、国家のために働く義務を負う。朝鮮戦争(50~53年)で大勢の男性が死亡したことや、北朝鮮当局が「千里馬運動」と呼ばれる大勢の労働者を動員した国家建設事業を推進したことなどから、大勢の女性が働く機会を得ることになった。北朝鮮では共働き家庭のための託児所が数多くあり、なかには週末を除いて月曜から金曜まで続けて子どもを預かる施設まである。

 しかし、それは労働力として期待されただけであり、本当の意味で、男女平等の世界が実現したわけではなかった。その象徴的な言葉が、金正日(キムジョンイル)総書記が生前好んで使った「雌鳥が鳴けば、家が滅びる」(女性が力を持つとろくなことがない)という朝鮮の古いことわざだった。

 金総書記は、金日成(キムイルソン)主席の後妻、金聖愛氏との間で激烈な権力闘争を繰り広げたため、女性が政治の世界に進出することを嫌ったとされる。2009年初め、金総書記は三男の金正恩氏を後継者に指名した。その際、同席した金与正氏が「私も政治に参加したい」と訴えたが、許されなかったという。

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