単純ヘルペスウイルス(HSV)は、HSV-1とHSV-2の2つの型に大きく分類されます。HSV-1は主に顔面、特に口唇に感染・再発を引き起こす一方で、HSV-2は主に下半身、特に性器に感染・再発を繰り返します。しかしながら、実際のところは性器ヘルペス初感染の約70%はHSV-1により生じていることが報告されています。また、HSV-1にすでに感染していたとしてもHSV-2にも感染しますが、この場合は無症状のことが多いようです。
冒頭で口唇ヘルペスをよく見かけると言いましたが、実際のところはどうなのでしょうか。体内に入ってきた異物を排除するために働くタンパク質を抗体と言いますが、単純ヘルペスウイルスの抗体の保有率を調べた2002年の調査によると、50代ではHSV-1抗体保有率が70%を超えていたことが報告されています。一方、18歳から29歳まではHSV-1抗体の保有率が50%を下回っており、若年者での抗体保有率が低下していることがわかったのです。抗体保有率の低下は、高齢になっても初めて感染する可能性があるということを意味すると同時に、ウイルスを体内に持っている人が周囲に減るのでウイルスに対する免疫自体も下がってしまう可能性があると言えます。
ウイルスに対する免疫自体が下がる、とはどういうことなのでしょうか。単純ヘルペスウイルスではありませんが、水痘・帯状疱疹ウイルス感染に関する免疫強化についての報告があったので紹介します。ロンドン・スクール・オブ・ハイジーン・アンド・トロピカル・メディスン(LSHTM) のHarriet氏らの2020年の報告によると、英国の一般診療データの解析から水痘の小児と家庭内で接した大人はその後20年間の帯状疱疹の発現率が33%低くなることが示唆され、この結果は、小児期に水痘にかかって成人期に帯状疱疹ウイルスに再び接すると完全に防げるほどの効果ではないものの、帯状疱疹への免疫が強化されるという考えを支持するものだと言います。つまり、ウイルスに接する機会が減ると、免疫が強化される機会が失われる、つまりウイルスに対する免疫自体も下がってしまうというわけなのです。