もうひとついうと、わたしはタブレットをそばに置いて資料を検索し、その事柄の正誤を確認しながら原稿を書くのだが、少し長い事柄になるとタブレットでは読みにくいからプリントアウトする。だから机のまわりにはいつも、関連本と地図帳と紙の資料がある。小説の舞台になったところへ行った取材メモもあるし、業界のひとに会って取材したノートもある。つまり、わたしは“紙”に取り囲まれてデジタル原稿を書いている。
『be』にはこんなコメントもあった。「(仕事の書類などではなく)プライベートでは小説も漫画も紙の方がずっといい。読みたいときに読みたいところを自由に開けて読める」と。
わたしはこのコメントに大賛成だ。紙の本には装幀(そうてい)というアートがあり、指でページをめくる楽しみがある。退屈な場面は飛ばし読みもできるし。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年4月9日号