株式投資などの運用益で生活する「FIRE」を実現したとしよう。だが市場の急変で、想定していたお金を得られなくなったら……。そんな不安もよぎる。どんな心構えが必要なのか。AERA 2021年4月5日号は、51歳でFIREを実現した個人投資家のエルさんにアドバイスを求めた。
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FIREを実現できたとして、最大の不安は市場の急変で期待通りの運用益が得られなくなることだ。
1991年から30年間、株式投資をしているエルさん。97年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショック、そしてコロナ危機と、さまざまな「危機」を経験してきた。
「とくにリーマンのときは回復まで時間がかかり、確かに厳しかったですが、でも長い目で見れば、そういう危機があるたびに各国の財政や中央銀行による過剰なほどの政策対応がとられ、逆にその後は少しバブルっぽい感じになるという繰り返しなんです。なのでどんな危機があっても、まあいつかは戻るでしょうし、『そんなに焦らずに構えて大丈夫ではないでしょうか』が私の答えになります」
■過度な楽観も悲観も×
エルさんは、FIREをめざすのであれば「物事を過度に楽観してはいけないし、過度に悲観的になってもいけない」と強調する。
「株式市場はここ数年、調子がいいので、評論家の方などは当面の株式市場のリターンは下がると想定しているものが多いですよね。でも逆に言えば、『少し下がれば、そのあと少し上がるんじゃないか』という想定も成り立つわけで。あまり心配ばっかりして保守的に『上がらないのでは』などと考えすぎてしまうと、必要な元本、確保しておかないといけない額がどんどん大きくなるばかり。本当なら早期リタイアできたのに『いつまでたっても実現できない』ということになってしまいます」
エルさんはFIREを実現するにあたって、ネットで公開されている「逃げ切り計算機」というサイトで自身の将来をシミュレーションした。自身の資産などの条件を入力すれば、「あなたの資産が尽きる年齢」が算出される。
エルさんが53歳でリタイアし、保有金融資産1億円……といった条件を入れた一例では、運用利回りが3%だとしても資産が尽きるのは86歳。男性の平均寿命を大きく上回った。
病気や親の介護などの特別出費も考えておく必要はあるが、一方でリタイアしてしまえば、前年の収入ベースで計算される住民税などは大幅に下がり、生活コストを削減できるという面もあるという。
「私の場合、19年にリタイアした後、請求された住民税は年間1万7300円。1千万円ほど稼いでいた会社員時代では考えられない額です。リタイアすると『必ず払わないといけないコスト』が意外と下がる。お金の面でも実は、ミニマムな生活が可能だと思います」
(ジャーナリスト・安住拓哉、編集部・小長光哲郎)
※AERA 2021年4月5日号より抜粋