自閉症の日本人少年が書いた本、『自閉症の僕が跳びはねる理由』が世界的ベストセラーとなり、映画化された。彼らの独特の感性を体感すると、自閉症の人への見方が一変する。AERA 2021年4月5日号に掲載された記事を紹介する。
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扇風機の羽音や雨音などが大音量で響いて聞こえる。幼児期の記憶が突如よみがえる。映画「僕が跳びはねる理由」では、荒々しい感覚の嵐にさらされている自閉症者の世界が描かれる。
映画の原作となったのは、作家、東田直樹さん(28)が13歳のときに書いた『自閉症の僕が跳びはねる理由』だ。本の英訳者で、映画にも出演しているアイルランド在住の作家、デイヴィッド・ミッチェルさん(52)はこの本を初めて読んだとき、自身の自閉症の息子が「語りかけているように感じた」という。
「息子が自閉症とわかってから、何の感情も持たないロボットと置き換えられたと思い込んでいたが、直樹の本が自閉症であっても好奇心や想像力を持ち、豊かな感情があるのだと教えてくれました」
これまで理解されにくかった自閉症者の感覚や感情について当事者の言葉で伝えた同書は多くの人の心を揺さぶり、30カ国以上で117万部を超えるベストセラーになり、自閉症の息子を持つイギリス人プロデューサー夫妻が映画化に動いた。
映画は、東田さんの本の言葉を道しるべに、インド、イギリス、アメリカ、シエラレオネに住む会話のできない5人の自閉症者の日常的な体験を描いた。
自閉症は脳の発達の異常によって発症すると考えられていて、言葉を使って自分の意思を伝えたり、相手の感情を推し量ったりすることが難しい特性や特定のものに対する強いこだわりがある。感覚の過敏さや鈍感さもあり、映画では彼らの独特の感じ方を観客に体感してもらうよう試みている。
例えば時間感覚。東田さんが著書に「バラバラの記憶が、ついさっき起こったことのように、頭の中で再現される」と記したように、映画では昔の記憶が生々しくよみがえり、現在の感情と混同する様子が描かれる。