覚醒剤や大麻などの違法薬物がらみの犯罪が後を絶たない。そんななか、米国で問題となっている合成ドラッグが、日本でも広がりを見せている。名称は「フェンタニル」。日本ではあまり聞き慣れない薬だが、ヘロインより強力で依存性が高く、過剰摂取による死亡者も多い。日本では、「半グレ」が新たな資金源として目をつけている。
「フェンタニルは安いので一般人でも手に入る。実際に街を歩けば売人が話しかけてくる」
フェンタニルの依存者が急増している米国での様子について、筆者の知人で米国ジョージア州アトランタに住むジャーナリストの男性がそう話した。
知人の住む地域は治安が良く、日系企業などが多く進出していることでも知られているが、そこですらフェンタニルは出回っているのだ。
「あぶって吸うのが一般的だけど、静脈注射をしている人も多く見かける。フェンタニルを単体で使うとあまりに効果が強くて死に至ることもあるので、コカインやヘロイン、合成アヘンを混ぜて成分を薄めて売っているようだ」
フェンタニルは、ケシの実を合成させて作られる薬物で、モルヒネのように、ガンなどの病気での慢性の痛みや手術後の痛みの緩和などに使われる。それら鎮痛効果のある麻薬性化合物の総称がオピオイド系薬物と言われている。
本来の使用方法であれば、依存体質になるなどの危険性は薄れるが、違法薬物として出回れば話は別だ。
フェンタニルは、オピオイド系のなかでも強力な鎮痛剤として指定されている。日本薬学会によると、薬理作用はモルヒネと同じだが、鎮痛作用は約200倍も強く、毒性も強いという。
米国では、オピオイド系の過剰摂取による死亡者数も多い。過去の数字だが、米国の疾病管理予防センターの発表では、17年には薬物の過剰摂取で7万人以上が死亡し、そのうちオピオイド系の死亡割合が約7割だった。
有名人では、16年にミュージシャンのプリンスが、フェンタニルの過剰摂取で死亡、19年には大リーグ投手のタイラー・スキャッグスが遠征先のテキサスで嘔吐(おうと)物を詰まらせて窒息死。その後の解剖で体内からフェンタニルなどが検出された。