前出の50代女性は、ずっとここに住むことはできないだろうと、家族と将来的な転居について話しているという。その家族の一人は同じ路地で立ち入り自粛をお願いしてきたが、ストレスが影響してか体調を大きく崩してしまった。
声をかけても無視して立ち食いを続ける女子高生。「ここは公道だ、お前らの土地じゃないだろう」「何様なんだ」などとすごんでくる男性たち。悪質な観光客は枚挙に暇がないほどいる。
この問題をニュースで見たという観光客の女性たちが、マナーの悪い若者を注意してくれたこともあったが、そんな「いい人」は奇跡に近い。頑張るほど日に日に疲れがたまり、終わりも見えない。
「祖父が残してくれた家を守りたいという思いはあります。でも、この現実を考えると、住宅地が昔の姿に戻るのは難しいと感じています。私の知る限りで、古くから地元に住んでいた3軒のお宅が、この2年ほどの間に家と土地を手放して街を出ていきました。毎日のように家の前のポイ捨てごみの掃除を強いられていた近隣住民は、ストレスをため込んでいら立ちを抱え続け、最後は『もうこんな汚くてうるさいところには住めない』と、泣く泣く引っ越しました」(同)
同じように街を出るか考えている住人は、今も少なくないという。
「楽しい観光地であっても、すぐそこに人が住んでいて、静かに生活していることをなんとか知ってほしい。たった一枚のごみ袋を持ってくることが、そんなに難しいんでしょうか。自分の家の前で、見ず知らずの他人がマスクを外して食べ歩く様子を想像してほしいんです」(同)
街を歩く観光客はみんな楽しそうだ。ただ、そのそばで、こうした現実に苦しんでいる罪なき住人たちがいることは、忘れてはいけないだろう。(取材・文=AERAdot.編集部・國府田英之)