副作用を抑えつつ、効率よくがん細胞をやっつけることはできないか――がん治療の新薬開発で大きな課題だった。そこで登場したのが、がん細胞のみを狙い撃つ「分子標的薬」や「抗体医薬」と呼ばれる新しいタイプの薬だ。どちらも、この十数年、がん細胞のしくみが解明されるにつれて開発が加速してきた。

 分子標的薬とは、がん細胞だけを攻撃したり、増殖を止めたりする薬だ。従来の抗がん剤に比べて、正常な細胞に与える影響は少ない。

 抗体医薬は、がん細胞の表面に付いて、人間が本来持っているがん細胞を殺す免疫細胞を呼び込み、がん細胞を攻撃するものだ。

 新薬を長年にわたって取材する医療ライターの小沼(おぬま)紀子氏は、こう話す。

「現在、がん細胞だけにあらわれる遺伝子やたんばく質の研究が進み、それを狙い撃つ薬が盛んに開発されています。たとえば、肺がんの患者では、がんの組織型だけでなく、患者の持つ遺伝子の状態によって、がんのタイプが複数に分かれています。そのタイプに合った薬を投与することで、それぞれの患者に効きやすい個別化医療が急速に進んできました」。

週刊朝日 2013年6月7日号