第1次訴訟判決について山本弁護士は「アジアで初めて人権例外を認めた画期的判決であり、国際法の未来を切り開く内容だ」と評価している。

 一方で第2次訴訟判決も、女性らを慰安婦とした行為については「国際人権法などに違反する行為で、被害者に対する深刻な人権侵害となる」と認定した。ただし「深刻な人権侵害」を根拠に、第1次訴訟判決のように「主権免除の新たな例外を裁判所の解釈により創設すること」が認められるまでに「国際慣習法が変更されたとはいえない」とした。さらに、日本に対する主権免除を否定すると「判決の宣告およびその後の強制執行の過程で日本との外交関係の衝突が避けられない」ことなどから、「韓国の外交政策と国益に潜在的な影響を及ぼしうる」と外交上の懸念も指摘した。この問題は「行政府と立法府の政策決定が先行されるべき事項」であり、現状で裁判所が主権免除の例外を認めることは「適切でない」と結論づけた。

 第2次訴訟の原告らは、2015年の日韓合意を否定する立場から提訴した。これに対し判決は、「日本政府の責任を明確に解明できず、慰安婦被害者たちの意見を収集しなかった」点については、日韓合意の「内容と手続きに一部問題点がある」と指摘した。しかし同時に、「慰安婦被害者の相当数が現金支援事業を受領しており、合意が被害者の意思に明確に反するものと断定することは難しい」との認識を示し、日韓合意による「和解・癒やし財団」の事業を「代替的な権利救済手段」と認めるという一定の評価を下している。

 裁判の判決で訴えそのものを不適法として「却下」する場合は、主張された内容について検討したうえで「棄却」する場合よりも「門前払い」という印象を強く受けるのが通常だ。実際、日本政府は2019年5月、韓国政府に対して「日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、訴訟は却下されなければならない」と伝達している。

 今年1月、第1次訴訟の判決を聞いた菅義偉首相は「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない。これは決まりですから。そういうなかで、この訴訟は却下されるべき、このように考えます」と言い切った。第2次訴訟の一審判決は、結論だけみると日本政府の立場に沿った形ではある。

次のページ 菅首相の一刀両断とは違う判決