東証1部上場企業1606社の2007年から2012年の変化を調査した経済ジャーナリストの渡邉正裕氏は、良好な成績をあげていたオーナー企業にある特徴を発見したという。

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 オーナー企業は、なぜ強いのか。一言で言い表すなら、世界一とも言われる投資家、ウォーレン・バフェット氏のこの表現がわかりやすい。「オーナーならば喜んで洗車するが、誰もレンタカーを洗車しようとは思わないでしょう?」

 これは、投資会社バークシャー・ハサウェイCEOのバフェット氏が、なぜ資産の99%をバークシャー株として保有しているかについて、投資家向けに語った言葉として有名である。自分の全財産が自社株ならば、真面目に経営にあたるという趣旨だ。

 具体的に、オーナー企業はどう違うのか。

 今回の調査でトップとなったソフトバンクが好例だ。その稼ぎ頭はケータイ事業であるが、これはボーダフォンを買収して06年参入したものだ。私はボーダフォン時代から在籍する複数の社員に、新旧経営の違いを聞いたことがある。

「トップダウンで指示がきて、納期が短くなりました。たとえば、iPhoneで社内イントラのメールを見られるようにせよ、何カ月後までにではなく、すぐやれ、と命じられる。さらに、それを法人販売しろ、と言ってきます」「営業は、孫(正義)社長に1日3回、報告が行く仕組みになっていて、すごいプレッシャーがかかるようになりました」

 ボーダフォンは、その成り立ちから、元JRや元日産の社員がいた。「50歳以上の人は、もともとJRにいた人が多い。JRとソフトバンクでは、共産国と民主国くらいの違いがあるから、順応できていません」。

 まさに旧来型の日本的経営の企業から、ニュー・オーナー企業へのモデルチェンジを果たしたのが、今の高収益なソフトバンクである。これは、日本の雇用面、税収面、そして消費者から見ても、好ましい変化ととらえるべきだ。

 ユニクロも、トップダウンで意思決定が速い。昨年辞めたばかりの元店長によれば、店舗現場には、毎週火曜夜に書類5枚ほど届く。一つは「部長会議ニュース」(議事録)で、ブロックリーダー(営業)、マーチャンダイザー(商品担当者)、そして柳井正社長が出席する会議の内容が記されているという。

「マーチャンダイザーが新商品を提案すると、柳井社長が『キミは何を言ってるんだ』とキレてることが多いです」(元店長)

 トップの考えが、こうしてダイレクトに現場に伝わるシステムなのだ。

 もう一つが「営業部実行方針」で、こちらが具体的な現場への指令である。「柳井社長が『いま売り場を見たが、商品を持ちすぎだ!』と言いだして、それまでは『売り場パンパン』でスケール感を持たせる方針だったものが、百八十度変わったこともあります。1週間で棚など什器の連結をすべて解体して、それは大変でした」(同前)。

 具体的な実行プラン、そしてチェック項目つきなのだという。こうした百八十度の変更も、トップの決断一つで、翌週には1200店超の現場に浸透し、実行されていく。

 楽天でも、毎週火曜の朝8時から全員参加の「朝会」で、情報の共有と、三木谷浩史社長の指示が、トップダウンで行われる。

「数年前から、買収した会社も、楽天色に染めることになりました。同じように朝会をやって、掃除をやらせて、社員全員に名札をつけています」(中堅社員)

 こうしたオーナー企業ならではの、中央集権・強権的なスピード感は、まったく民主的ではなく独裁的だが、この不況下の5年間における経営成績の差は、ニュータイプのオーナー経営こそが生き残れることを明確に示したといえる。

 ニュー・オーナー企業は1人のCEOによる独裁経営が多いが、一方の旧来型日本的経営においては、会社と社長を中心とした集団指導体制で、いずれもサラリーマンの「あがり」ポストである。

 会長のほうが役員報酬も若干高く、会長は財界・政界工作を主に担当し、社長が社内の実務にあたるケースが多い。

 だが両者は必ずしも仲がよいわけでなく、派閥争いも絶えない。富士通では、社長が電撃解任された(09年)。シャープでは、片山幹雄会長がサムスンと交渉し、奥田隆司社長はホンハイと交渉し、どちらもうまくいかず2人そろって5月14日に退任するという、ジョークのような世界が実現した。権限が一元化されていないと、このように無駄なエネルギーを使うのだ。

週刊朝日 2013年6月14日号