AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
美術鑑賞のコツを、クローズアップや補助線など、多様なビジュアルを用いながら紹介していく『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』が刊行された。通史的な解説ではなく、著者の視点で選んだ作品にこめられたメッセージを読み解くことで得られる「鑑賞眼を鍛えるヒント」からは、美術を見る醍醐味を味わえる。2021年後期から東京藝大の「西洋美術史概説III」の教科書になる予定。著者の佐藤直樹さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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美術を志す学生が集う、東京藝術大学ではどのような美術史講義がおこなわれているのだろうか──。
本書は東京藝大で教鞭をとる佐藤直樹さん(56)が、実際に開講している「西洋美術史概説III」の授業をまとめたもの。15回の講義形式で構成されているが、時代順に作品を紹介する、いわゆる「通史」的な構成ではない。あえて佐藤さんの興味に偏った作品選択になっているのだ。
「私自身が東京藝大で教わった美術史の伝統を開示してみたいと思いました。バランス良く作品について知るよりも、個々の作品について具体的なアプローチを学んだほうが、実は美術鑑賞のコツを得るにはてっとり早いと考えるからです。一般の美術史入門では飽き足らない方にとって、格好の内容になったのではないかと思います」
本書では図版の見せ方にも工夫が凝らされている。作品全体の写真だけでなく、重要な部分を拡大して紹介したり、同じモチーフを違う作家がどのように表現したのかを、彫刻や絵画ばかりでなく建築とも比較しているのだ。どの見開きにも複数の図版が掲載され、「なるほど専門家はこういうポイントを見ているのか」と、実感できる。
また、時代を超えて作品やモチーフが引き継がれ、関連していく「美術のネットワーク」があることがわかってくるのは、スリリングな読書体験だ。美術鑑賞とは、目の前の作品にとどまらず、歴史的な関連を味わうことなのだ。