

フードデリバリーの多くの運営会社の配達員は、運営会社が提供するスマホアプリを介し、飲食店と配達ごとに業務委託契約を交わす「個人事業主」だ。運営会社とは雇用関係になく、労災や雇用保険の適用対象外で、所得補償も不十分。そうした中、労働環境のさらなる悪化が懸念されている。AERA 2021年5月3日-5月10日合併号で取材した。
※「路上で『地蔵』になるウーバー配達員、脅迫のようなメールも…悪化する労働環境に疲弊」より続く
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ウーバーの配達員ら約30人でつくる労働組合「ウーバーイーツユニオン」執行委員長の土屋俊明さん(44)もウーバーの配達員だ。1999年に大学を卒業したが、就職氷河期のど真ん中。アルバイトや契約社員で働いてきた。そうした時に知人から「結構稼げる」と聞き、18年7月にウーバーに登録。対人ストレスがない働き方も気に入ったという。
ユニオンに関わることになったのは、配達中の事故がきっかけだった。19年7月、都内で雨の日に原付きバイクで配達中、濡れた路面でスリップしてバイクごと転倒し全治2週間のけがを負った。ウーバーに報告すると、脅迫ともとれるメールが返ってきた。「お見舞い申し上げます」に続き、今後このような事故に遭えば「あなたのアカウントは永久停止となるかもしれません」と警告してきたのだ。アカウント停止となれば、「個人事業主」は仕事がなくなる。
アカウント停止の主な理由についてウーバーはガイドラインで、配達中の運転技能不足や危険運転、不注意運転などをうたっている。だが、雨の日に転ぶことは誰にでも起こりうる。
人間扱いされていない──。
怒りを覚えた土屋さんは、ウーバーイーツユニオンの設立準備会に参加。ユニオンは19年10月に結成され、昨年11月、土屋さんが委員長に就任した。土屋さんによると、ウーバーから何の説明もなく突然アカウントが停止されるケースは珍しくないという。同ユニオンとNPO法人「東京労働安全衛生センター」が昨夏に公表した実態調査で、交通事故後にアカウントが「停止された」もしくは「警告があった」と回答した人は約25%だった。
「アカウントが停止されることを恐れ、事故を起こしたり巻き込まれたりしてもウーバー側に報告しない配達員もいます」(土屋さん)
ユニオンは(1)事故やけがの補償、(2)運営の透明性、(3)適切な報酬──この3本を柱に、同社の日本法人に団体交渉に応じるよう求めている。
だがウーバーは、配達員は労働者性が認められないとして、団交を拒否。ユニオンは、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。土屋さんは言う。