「スコア、今いくつ?」「フフ、ナイショ」とニヤニヤしのぶ。どうやっても真っ直ぐ飛ばない私に、業を煮やしたしのぶが「キンタマーニ、チカライレテ、ウッテミ!」と叫びました。「金玉に力を入れて打て」。自分は力入れたこともないくせに勝手なことを……。なんとなく下腹部から尻の穴あたりに力を入れるような心持ちでクラブを振ると……スコーン! 真っ直ぐ飛んだ!……スゴイな、しのぶ。「フフフ、ナンデモ、キンタマ、ダイジヨ」「ホントだね! キンタマだね!」。青空の下、「金玉金玉」と笑い合うヘタクソとしのぶ。
結局スコアは「230クライ」でした。しのぶいわく「ダイブオマケシタ(笑)」。スコアはともかくタイの日差しの下で飲むシンハービールは美味かった。あれからゴルフは一度もやってないけど、大切な時は「キンタマニチカラ」を入れるようにしています。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中
※週刊朝日 2021年5月21日号