■味わいたい瞬間がある

——実は、「ホリデイラブ」でブレークのきっかけを掴んでも、その後1年以上は仕事が少なかった。一気にオファーが増えたのは、昨年バラエティー番組に出演するようになってからだ。

松本:この2年でせっかく女優として注目を浴びたのに、今この波に乗らなかったら本当にばかだと思いました。このまま良い作品だけにちょいちょいちょいと出る道を選ぶか、オファーが来ている仕事はバラエティーでも何でも受けるか。どちらを取るかすごく悩みましたが、すでに20年間退屈な日々を過ごしてきて、あと10年かけていい俳優になることは、正直、耐えられないと思ったんです。今ならものすごくエネルギーがあるし、エンジンもフル回転しています。バラエティー番組に出て未熟な部分が出たとしても、乗り切れるのではないかと考えました。

——すべては演技のため。その気持ちはデビューしてから微塵も揺らがない。

松本:演技をしていると「この瞬間を味わいたかった!」という、役者とスタッフが集中したいい1カットが生まれることがあるんです。私は人とのコミュニケーションが苦手ですが、本当に納得いく演技ができた時は、演技でこそコミュニケーションができると感じます。「向こうの果て」では、役柄上、相手役の俳優さんたちとほぼ話していないし、目を合わせることもできなかった。でも、本番で本当の意味でつながり合うことができた時に、彼らとものすごく信頼関係が築けた気がしたんです。演技は私にとってのコミュニケーションツール。もっと磨いていきたいです。

 とにかくいろんな役をやりたいです。演技以外では、最近は情報番組やバラエティー番組と、思いがけないオファーをたくさんいただきます。なぜこのオファーが私に!? と思ったのですが、求めてもらえることは嬉しいですし、貴重なことだと思います。新たに挑戦することで気づきがあるかもしれませんし、自分を作っていけるのではという興味もあります。また、求めてくれる人に応えたいという気持ちもあります。自分が無理だと思うことを超えてみたいんです。だから、これからも、挑戦し続けていきたいです。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年5月17日号