座間9人殺人事件の白石隆浩死刑囚 (c)朝日新聞社
座間9人殺人事件の白石隆浩死刑囚 (c)朝日新聞社

 ノンフィクション作家・足立倫行さんが選んだ「今週の一冊」。今回は『冷酷 座間9人殺害事件』(小野一光著、幻冬舎、1430円)の書評を送る。

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 2017年10月30日。警察が、行方不明中の23歳の女性の捜査で浮上した男を追尾したところ、神奈川県座間市のアパートに行き着いた。男に尋ねると、「あの子はここです」と部屋のクーラーボックスを指さした。

 中から人体の頭部が出てきた。ボックス類は七つあり、計9人分の頭部と人骨を発見。居住者の男は無職の白石隆浩(当時27)で、9人の殺害と解体・遺棄を告白した。日本の犯罪史上例のない、猟奇的な連続殺人事件の発覚である。

 評者は当初から事件の全貌を知りたいと願ってきた。最寄り駅が偶然、白石が利用したのと同じ小田急線の駅なのだ。

 被害者全員(女性8人、男性1人)が、私に馴染みの改札口を通り、白石と一緒にアパートへ向かったと思うと、社会的関心とは別の感情も湧いてくる。

 本書は、「生死に関わる大病」を患った事件モノのベテラン・ライターが、意を決して昨年取材した拘置所での白石との面会(計11回)と東京地裁での裁判(計23回と判決公判)の記録である。

 包括的にこの事件を扱った最初の書籍と言ってよい。

 本書によると、「ヒモになりたかった」白石は、SNSで弱った女性を物色し、17年8月初頭に厚木市在住で自殺志願の会社員Aさん(21歳)と知り合った。

 自殺より同居を提案するとAさんは同意。不動産屋への見せ金51万円を白石の口座に振り込んだ。すると白石に殺意が芽生えた。

「金を返したくない」「返さないと自分は執行猶予中の身なので実刑になる」、その前に殺そう、と。ロフト付きの部屋に決めて、ノコギリや包丁などを用意した。

 入居した翌日の夜、白石はいきなりAさんの首を絞めた。失神したAさんに欲情し強制性交。ロフトのはしごを使いロープで吊り下げ窒息死させ、所持金を奪う。そしてネットで得た知識により遺体をバラバラにし、一部を捨てた。

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