平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長
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日本オリンピックミュージアム前に立つクーベルタン男爵像=東京都新宿区 (c)朝日新聞社
日本オリンピックミュージアム前に立つクーベルタン男爵像=東京都新宿区 (c)朝日新聞社

 指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第69回は、「バトンタッチのタイミング」。

【写真】日本オリンピックミュージアム前に立つクーベルタン男爵像

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 日本の競泳が恒常的にいい選手を出していくために最も大切なことはコーチの育成だと思っています。

 これは日本水泳連盟が組織を挙げて取り組むべき重要な課題です。個々のスイミングクラブや学校水泳部をバックアップし、いいコーチが育つ環境整備やシステムづくりを進めています。

 競技力向上を担う競泳委員会では、研修などを通してベテランコーチの考え方や指導方法が受け継がれる機会を設けています。

 私は2008年に競泳日本代表ヘッドコーチを拝命し、15年からは競泳委員長も兼任してきました。選手指導も続けているので、いわば「三足のわらじ」をはいている状態です。

 それまでは現場トップのヘッドコーチと組織を統括する競泳委員長が力を合わせてきました。この6年は私が兼務しましたが、マネジメント業務は自分一人ではできない部分もあり、多くの方の協力を得られたのが大きかったと思います。

 兼務は意思決定が速くできるメリットはありますが、すべての責任がかかってきます。独りよがりになって間違った方向に進んでしまう危険性もあります。心掛けてきたのは人の意見をできるだけ聞き、仕事を分担することです。ただ、リオ五輪が終わってから思うように全体の強化が進められなかったこともあり、悩み続けた6年でした。

 近年は目先の結果を求める風潮が強くなってきたと感じていました。東京五輪の開催が決まってからは目の前に大きな目標があるので、中長期的な視点を持ちにくくなってきたこともあると思います。世界の強豪国として活躍し続けるためには、中長期的な視点を持って選手が一線級になってから長く世界のトップに居続けられるような強化が必要です。東京五輪が終わって10年後、20年後を想像して強化にあたってほしい、と指導者に言い続けてきたのはそのためです。

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