平日の夜のアップルストアは人影もまばら。iPod、iPhone、iPadに続く4番めの「i」を待ち望むユーザは多いが……(撮影/今村拓馬)
平日の夜のアップルストアは人影もまばら。iPod、iPhone、iPadに続く4番めの「i」を待ち望むユーザは多いが……(撮影/今村拓馬)
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 その一報が伝わると、シャープの社内には安堵のため息が広がったという。3月から止まったままだった亀山第1工場(三重県)で5月上旬、液晶パネルの生産が再開されたのだ。2カ月ものブランクが、なぜ生じたのか。同社関係者は神妙な表情で内幕を明かす。

「米アップルからの発注が年明け以降、激減し、ついにはゼロになったんです」

 かつて液晶テレビ「AQUOS」の生産拠点だった同工場は今、アップルの専用工場に姿を変えている。スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」のディスプレー向けに、生産したパネルの全量を供給する契約を締結。アップルも約800億円を負担して設備を刷新し、昨年9月発売のiPhone5から出荷を始めた。

 当初の発注は月産約700万枚。シャープの携帯電話の年間出荷台数に匹敵する量だ。工場の稼働率は一気に上がり、赤字続きだった業績は昨年10~12月期に5四半期ぶりの黒字に浮上。だが12月半ば、アップルからこんな通告があり事態は暗転する。

「1月の調達量は12月比で半減します」

「5」の販売が想定を下回っているのだろうと推測したが、説明はなかった。その後も発注は減る一方だったが、アップル専用工場のため、他メーカーの製品を代替受注することもできない。損失を埋めるべく交渉した先が、韓国のサムスン電子だ。隣接する亀山第2工場でサムスンのテレビ用パネルの生産を受注。水面下では出資も働きかけ、今年3月にサムスンはシャープの5位株主になった。今後、サムスンのスマホ「ギャラクシー」にもパネルを供給し、液晶事業を安定させる青写真を描く。

「神話」とまで讃えられたアップルの強さは揺らいでいるのか──。「準日本製」と言われるほどiPhoneビジネスに深くかかわってきた日本の電子部品メーカーに、そんな疑心が広がっている。

 アップルは一切コメントしておらず、真偽は定かでない。だが、アップルの今年1~3月期決算は、売上高こそ前年同期比で1割増えたが、純利益は逆に2割近く減った。

AERA 2013年6月17日号