佐々木朗希はプロ初登板となった5月16日の西武戦で、与えた四球は二つ。「自ら崩れず、ピンチで粘れた」とのコメントを残した(c)朝日新聞社
佐々木朗希はプロ初登板となった5月16日の西武戦で、与えた四球は二つ。「自ら崩れず、ピンチで粘れた」とのコメントを残した(c)朝日新聞社
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佐々木朗は高3夏の岩手大会で準々決勝と決勝を除く4試合に登板し、計29回で51三振を奪い計2失点。総投球数は435で、最速は4回戦での160キロだった(c)朝日新聞社
佐々木朗は高3夏の岩手大会で準々決勝と決勝を除く4試合に登板し、計29回で51三振を奪い計2失点。総投球数は435で、最速は4回戦での160キロだった(c)朝日新聞社

 高校生史上最速の163キロで「令和の怪物」と言われたプロ野球ロッテの佐々木朗希選手が5月16日、高卒2年目でプロ初登板初先発を果たした。150キロを連発し、進化した姿を披露した。AERA 2021年5月31日号から。

【高校生のときは細かった? 高3夏の佐々木朗希選手の写真はこちら】

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 ロッテ・佐々木朗希(19)は現在、2軍で調整している。プロデビュー戦を飾った5月16日の西武戦(ZOZOマリンスタジアム)では107球を投じて5回6安打4失点。勝利投手の権利を得てマウンドを降りたが、救援陣が踏ん張れず試合は引き分けに。翌17日に出場選手登録を抹消された。

 二回までに4点のリードをもらったが、勝ち切れなかった。だが、その球は高卒2年目のレベルを凌駕(りょうが)していた。直球は全体の7割近くを占める71球。最速は154キロで、9割以上の64球が150キロ以上を計測した。

 佐々木朗は試合後、球団公式YouTubeでこう語った。

「緊張はそんなにしなかったですけど、独特の雰囲気で一球一球疲れました。これだけ疲れたのは初めてです。9回投げるよりも疲れました」

 そして、気持ちが高ぶっていたことを明かした。

「(登板日は)本当はゆっくり起きたかったけど、(午前)5時に目が覚めました」

■ダルビッシュ有も絶賛

 平常心ではない中でこれだけのパフォーマンス。大リーグ・パドレスのダルビッシュ有(34)は自身のブログで絶賛した。

「日本中から注目されながら、150キロ超えをバンバン投げて西武打線相手に5回投げたことだけでも凄すぎます」

 岩手・大船渡高時代に高校生史上最速の163キロをマークしたのが2年前の2019年4月。球速だけを考えればプロ初登板は物足りなく映ったかもしれないが、スポーツ紙のアマチュア野球担当記者は佐々木朗の変貌(へんぼう)した姿に驚いたという。

「高校時代は積んでいるエンジンに耐えられる体ではありませんでした。163キロを計測してもコンスタントに速い球を投げ続けられるかと言ったらそうではなかったんです。球もばらついていました。でも、プロデビュー戦で見違える姿に成長していた。細かった体に厚みが増し、球数を重ねても投球フォームがブレない。100球を超えても直球は150キロ以上を計測し、予想以上に制球がまとまっていました。プロ初登板で投げることに精いっぱいになってもおかしくないのに、西武の森友哉(25)に対して速い球で内角を強気に突いたように投球の意図も見えた。これからの成長が本当に楽しみです」

 強打者をそろえた西武の「山賊打線」を相手に5奪三振。4番・山川穂高(29)からはフォークで二つの三振を奪った。スライダーも切れ味鋭い。フォークと共に140キロ台を常時計測した。直球と見間違うような球速からの鋭い変化は大きな武器になる。カーブなど緩い変化球も覚えれば、緩急が使えるようになり、投球に奥行きが出て立体的に組み立てられるようになる。だが、現時点でそこまで求めるのは酷だろう。

■課題は投球以外の部分

 克服しなければならない課題は明確に出ている。投球以外の部分だ。本人も自覚しているだろう。五回までに金子侑司(31)、源田壮亮(28)、若林楽人(23)と俊足の選手に計5盗塁を許した。牽制(けんせい)を挟むなど警戒はしていたが、すべて好スタートを切られて余裕を持っての二盗だった。

「西武は狙っていましたね。走者が出たら常に盗塁を仕掛けようというゲームプランでした。気になったのは金子、源田、若林と塁に出たら思い切りよくスタートを切っていたこと。佐々木朗のフォームに癖が出ていたのか、仕掛けるときに迷いがない。そこは少し気になりました」(スポーツ紙デスク)

 ただ、この点も過度に心配する必要はない。前出のアマチュア野球担当記者がこう強調する。

「西武の松坂大輔(40)、楽天の涌井秀章(34)はフィールディング、牽制、クイックなど神奈川・横浜高でみっちり鍛えられたのでプロ1年目から十分に対応できるレベルでしたが、佐々木朗は違います。全国の強豪校とは違う環境で、まだまだ投球以外に身についていない技術が多い。クイックや走者を出してからの間合いなど、勝てる投手になるための要素は、練習や実戦を重ねることでどんどん上達していくでしょう」(ライター・牧忠則)

※数字などは20日現在

AERA 2021年5月31日号より抜粋