「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、緊急事態宣言が発令されると忙しくなる東京都下の村について。あるものが多数存在しているからだという。
【写真】意外な理由。緊急事態宣言下で人気のマイナーな観光スポットとは
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東南アジアの人々は滝が大好きだ。
たとえばラオス。地方の街のホテルのロビーには、周辺の観光地の写真が掲げてあることがある。そのなかに必ずといっていいほど滝がある。しかしその写真を見て、肩を落とす。日本人の感覚からすれば、それは滝というより段差……。
タイ人たちは雨季が明ける頃、タムブン旅行に出ることが多い。タムブンとは寄進。地方の寺へ寄進ついでに観光旅行というわけだ。家族や会社単位、地域単位で企画される。そのコースには、必ずといっていいほど滝が含まれる。
一度、そんなタムブン旅行に参加したことがあった。朝、チャーターしたバスで出発した。最初に訪ねるのが滝だという。そこで昼食をとるらしい。
昼少し前に滝に着き、ラオスのホテルで目にした滝の写真を思い出した。やはり段差だった。
「滝に沿って冷たい風が流れているから気持ちいい」
誘ってくれたタイ人が説明してくれた。東南アジアの人々が求めるのは滝の景観……というより涼しさだった。たしかに流れに沿って風が吹いている。気化熱の作用なのか、ひんやりとする。子供たちはTシャツにハーフパンツ姿で水に入る。暑いエリアの発想だった。
東京都下の檜原村を訪ねた。この村は滝が多い。村のホームページを見ると、滝めぐりのコースも紹介されている。
東京が緊急事態宣言が出る前の週だった。途中で入った売店のスタッフがこんな話をしてくれた。
「来週から忙しくなりますよ。緊急事態宣言が出ると、東京都の外に出ることを控えるようになる。でも、じっと家にいるのもつらい。気分転換ですね。いまは季節もいいし」
僕も非常事態宣言が出ると高尾山によく向かう。本来は家から出ないほうがいいのだが。