わが家は昨年2020年末までアメリカに5年ほど住んでいましたが、nursery schoolは、少なくともわたしたちが住んでいる地域では一般的な言い方ではありませんでした。kindergartenに入るまでに通う施設は主にpreschoolと呼ばれていましたが、preschoolといっても0歳児から通える託児所的な場から、満3歳児から通ってきっちりお勉強をする教育的な場までさまざまで、単純に「保育園はpreschool」と訳すのも無理があるなと感じます。

 もうひとつ例に挙げた「水筒」もそうです。普通の辞書には「水筒はwater bottle」とあるし、大半の人はそう訳すでしょう。でも子ども用の水筒を比べると、アメリカのものと日本のものはちょっと異なります。アメリカの子ども用水筒は透明のプラスチック、もしくはステンレス製。飲み口はストローか直接飲むタイプが主で、特にカバーなどはついていません。対して日本の子ども用水筒はステンレス製が多く、首からかける紐とカバーがついています。飲み口はさまざまですが、コップがついているタイプも多いですよね。「水筒」と聞いて思い浮かべるものがアメリカと日本では違うので、単に「水筒はwater bottle」としてしまっていいのか戸惑うのです。日本的なお弁当箱が英語でも「bento box」と呼ばれているように、「suito bottle」なんて言葉が生まれる日も近いんじゃないか……なんて思ってしまいます。

 そんなこんなで、なかなか徹底するのが難しい言語の使い分け。いろいろ疑問を感じながらバイリンガル育児を進めていたとき、事件は起きました。

 事件といっても周りの目から見ればささいな出来事ですが、メソッド通りにしなければ!と固くなっていた母親としては衝撃でした。それは上の子が2歳をちょっと過ぎたころ、子ども部屋で起きました。子ども用の本棚はわざわざ同じ大きさのものをふたつ用意し、ひとつには日本語の絵本、もうひとつには英語の絵本をしまっていました。OPOLメソッドに従い、日本語の本は母が、英語は父が読み聞かせるのがルール。日本語の本が読みたいとき・母に読んでほしいときは日本語の、英語の本が読みたいとき・父に読んでほしいときは英語の棚から子ども自身で取り出せるよう、きっちり分類しておいたのです。

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二言語を分けなくていい?