ところが加齢によって卵巣機能が低下していると、エストロゲンを十分に分泌できない。すると視床下部や下垂体は、興奮して「もっと働け!」と卵巣に指令を出す。視床下部は、血流や血圧、心拍、発汗、体温などに関わる自律神経をコントロールしているため、のぼせやほてり、発汗などの血管運動神経症状が出やすくなると考えられている。

「脳が混乱しているような状態で、運動したわけでもないのに、心拍数が増えたり、血管が拡張したり、発汗したりといったことが起こるのです」(野崎医師)

 更年期障害の症状は、血管運動神経症状以外にもさまざまで、疲れやすい、めまい、動悸、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節痛、手のこわばりなどの身体症状や気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠、不安感などの精神症状がある。更年期世代の女性がこうしたさまざまな症状を訴えた場合、更年期障害が疑われる。卵巣機能が低下しているかどうかは、月経周期の変動や血液検査によるエストロゲンや卵胞刺激ホルモンの数値によって判断する。

「エストロゲンはゆらぎながら減少していくため、分泌量が多い日もあれば、少ない日もあり、症状も日によって変化します。このため、1回の血液検査でエストロゲンの分泌量が十分だったからといって、更年期障害ではないとは言えないのです。症状や月経周期などを含めて診断することが大切です」(同)

■婦人科受診を機に将来の病気を予防

 更年期障害特有の症状はないため、ほかの病気との見極めも重要だ。特に典型的な症状であるほてりやのぼせは、更年期世代に多い甲状腺の病気でも出現する。このため、女性ホルモンと同時に甲状腺刺激ホルモンの測定もおこなって、鑑別する。

 重いうつ症状を伴う場合、うつ病との鑑別も難しい。女性ホルモンを補充する治療をおこない、効果があるかどうかで鑑別できることもある。

 更年期症状は、程度が軽いものも含めると、更年期世代の約8割の女性が感じていると言われている。「この程度の症状は更年期だから仕方がない」と婦人科を受診しない女性も多い。しかし愛知医科大学病院産婦人科教授の若槻明彦医師は「更年期障害をきっかけとした受診は、健康寿命を延ばすチャンス」と話す。

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