NYでは接種会場が頻繁に変更されることもあるという。よほど旅慣れた人でもない限り、すべて個人で手配するのは困難だと土橋さんは言う。

「私は米国に30年住んでいますが、アジア系をターゲットにしたヘイトクライムもあり、特に危険です。しっかり見守ってご案内しないと私も不安です」

 土橋さんが5月15~22日に案内した第1陣は、50代の4人グループの経営者など4組8人。いずれも3泊5日で帰国した。24日の週は約40人、31日の週は約80人を案内する予定だ。今後さらに需要が増すと見込む土橋さんは、1日当たり最大1千人の日本人を受け入れる態勢を準備中という。

「東京からNYへの直行便を運航する日本航空や全日空、米国のユナイテッドの航空3社が、それぞれ300人のワクチンツアー客を搭乗させた場合の上限を想定しています」(同)

■1泊3日で接種完了

 1泊だけの滞在で接種を済ませたいとの要望も多いという。このため土橋さんは、市内のPCR検査のクリニックと交渉し、受診の3時間後に検査結果を出してもらい、1泊3日で帰国できる態勢も整えた。ただ、副反応などを考慮し、土橋さんは3泊5日を推奨している。

 留意が必要なのは、NY市でいつまでワクチン接種ができるのか見通せないことだ。

「お客様には渡航の10日以内になってから、ホテルや航空券を押さえるようお願いしています。7~8月の夏休みを利用して渡航したいとの要望も多いですが、その頃までNY市が海外旅行者向けの接種を続けているか保証できません」(同)

 体験者はどんな思いで渡航したのか。

 1回で済むJ&Jのワクチンを接種した都内在住の50代男性は「自力で海外渡航して打たざるを得なかったのは不本意」と悲痛な表情で思いを語った。

 商社を経営する男性は、接種を済ませたライバルが世界でビジネスを再開しつつある現状に焦りを募らせてきたという。

「私のような商社系の人間のみならず、研究者も含めて仕事で海外に行かなければならないのに出国できない人はたくさんいるはずです。そういう方にとっては、ワクチン接種がいつになるかわからない状況は耐えられないと思うんです」

■取り残される日本

 男性は昨年以降、政府のコロナ政策にはストレスがたまる一方だったという。水際対策も緊急事態宣言の発出もすべてが後手。政治判断で押し切って始めたGoToキャンペーンも感染まん延につながったとみる。男性が海外でワクチン接種するしかないと考えた決定的な出来事は、医療従事者の接種が終わっていないにもかかわらず、4月12日から65歳以上の接種を国が始めたことだった。

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