それにしても、感染の拡大が止まらず、国民の反対が強い中で、菅内閣はなぜ東京五輪の中止が打ち出せないのか。
1、2カ月前まで、自民党幹部たちは、東京五輪の開催・中止の決定権はIOCが握っていて、そのIOCが開催を主張している中で日本政府にも東京都にも中止を決める権限はないと説明していた。
政府が緊急事態宣言の期限を5月11日までと表明していたのは、17日にバッハ会長が来日する予定だったからだ。都や政府幹部と会議をして、五輪開催の最終決定をするので、それ以前に何としても緊急事態宣言を解除して、感染者数を減らしておきたいと菅首相は考えていたのであろう。
だが、バッハ会長は来日を取りやめた。その意味では東京五輪の決定権を半ば放棄したのである。
それにもかかわらず、菅首相は中止を言いださない。ある自民党幹部は、東京五輪が中止になると、テレビ広告費など、IOCに入るはずの数兆円が入らなくなって組織が破綻する、そのために日本政府にその損害を負担せよと求めてくる、それが怖くて中止を打ち出せないのではないか、と説明したが、私はそうは捉えていない。
菅首相は、東京五輪の中止を打ち出すことが、すなわち菅内閣の打ち切りになると思い込んでいるのではないか。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2021年6月11日号