経済効果や損失、コロナの感染拡大のリスクを考えた場合、五輪中止を選択するのが無難に見える。
ただ、それでも誰よりも切実に開催を望んでいるのはアスリートたちではないか。スポーツライターの折山淑美さんはこう指摘する。
「選手たちは今、ただ静観するしかない。特にマイナー競技の選手たちにとっては五輪が最大の目標であり、人生のターニングポイントになりうる。注目される場が五輪しかないからです」
マイナー競技の選手たちが五輪開催によって得る恩恵は大きい。折山さんは、2008年の北京五輪フェンシング男子フルーレ個人で銀メダルを獲得した太田雄貴氏(現、日本フェンシング協会会長)を例に挙げる。
「彼は職がない中で五輪に臨み、活躍を見せたことで就職先を得た。彼の活躍がなければ、フェンシングは今ほどの知名度は間違いなくなかったでしょう」
太田氏は北京五輪後に森永製菓に入社し、その後、日本フェンシング協会の会長まで上り詰めた。
「マイナー競技が五輪に頼らざるを得ない現状は見直さなければいけませんが、とはいえ、『五輪出場』の肩書は選手のセカンドキャリアを考えれば、いろいろと有利に働くのです」(折山さん)
五輪出場という肩書は大きく、さらに印象的な活躍を見せれば、その後の生活に直結するのだ。
12年ロンドン五輪、16年のリオ五輪に出場したトランポリンの伊藤正樹さんは、トランポリン専用施設を立ち上げ、運営している。
「もし五輪に出られていなかったら、今の自分はない」と断言する。
「トランポリン選手でご飯を食べていくことは、現状では絶対に無理。世界選手権で優勝しても賞金は30万円。遠征費など競技活動の出費のほうがはるかにかかる。だから五輪に出て、競技、選手を知ってもらうことが何より大事なんです」
金沢学院大大学院生だったロンドン五輪で4位という好成績を残したことで、就職先が決まった。19年まで現役を続け、貯金もできた。だからこそ今、施設の運営ができていると語る。