このほか、超短時間作用型の薬でよく知られているのがハルシオン(一般名トリアゾラム)だ。トリアゾラムはベンゾジアゼピン(BZ)系、ゾルピデムは非BZ系に分類される。一般的に非BZはBZより抗不安や耐性など薬理作用が弱いとされるが、実際はふらつきや転倒、健忘、薬がないと眠れなくなるといった副作用の種類や依存性はBZとほとんど変わらない。宇多川氏が続ける。
「BZと非BZ(一部の新薬を除く)は化学構造が違うだけで、作用の仕方は同じ。脳のなだめ役といわれる神経伝達物質GABA(ギャバ)の一部(BZ受容体)の働きを強くすることで神経の興奮を抑え、眠りやすくします。どちらも脳の中枢神経に働きかける向精神薬であり、リスクもあります」
不眠の症状により処方される薬は異なる。夜中に何度も起きる、朝早く目が覚めてしまうという場合は長時間作用型や中間作用型の睡眠薬が使われるが、問診で「寝つきが悪く、朝早く起きてしまう」と言うと、超短時間型と長時間型の両方が処方されることがある。
「日本では、睡眠薬は2剤まで使えるのが問題です。多剤処方は効果よりも副作用が上回るとされ、米国では単剤処方を推奨しているんです」(宇多川氏)
知っておくべきなのは、副作用のことばかりではない。睡眠薬を長期間常用し続けることで重大な病気を招く恐れもある。
米カリフォルニア大学のクリプキ教授らが実施した大規模調査で、睡眠薬を毎日飲んでいる人は、飲まない人に比べて死亡リスクが男女とも約25%増えることがわかった。「医薬ビジランスセンター(薬のチェック)」理事長の浜六郎医師がこう説明する。
「クリプキ教授の研究は約100万人を対象に持病や服用している薬剤、睡眠時間、食事、既往症など30項目にわたって調査しており、信頼性が高いデータです。死亡リスク25%増というのは大病を一つ抱えたのと同じ。例えば糖尿病は合併症が出ていない人でも、糖尿病のない人に比べて死亡リスクが1.2~1.3倍ですから、睡眠剤の常用はそれと同等の危険度です」