「当時は、“女優になるのが夢”だったかどうかも怪しいです(笑)。就職活動のときも、周りが普通に企業を訪問している中、『女優を目指しているから就職しない』とは、親や友達にも言えなかった。『別に本気で女優になれるとは思ってないし……。ただ、もう少しこのままでもいいかな』みたいな言い訳を繰り返していました。心の中では、私にだって何かできるんじゃないか、いつか誰かが見つけてくれるんじゃって思っていたのに」
オーディションを受けても、落ちるばかりの日々。ただ、20代半ばから、邦画を観るようになり、「この監督の演出を受けてみたい!」という具体的な目標が生まれ、潮目が変わった。
「『リアリズムの宿』という映画をすごくおもしろいなって思ったんです。そのときに、山下敦弘監督のワークショップで参加者を募集しているのを見つけて。当時の私には高額の参加費だったんですが、『エイヤー!』と思い切って参加したら、心の底から『演じるって楽しい!』って思えて。それからですね、いろんな役を演じてみたいという欲が出てきたのは」
以来、舞台にも積極的に足を運ぶようになった。とくに、三浦大輔さんが主宰する劇団「ポツドール」の舞台を初めて見たときは衝撃を受けた。三浦さんといえば、過激なテーマをリアルな会話で成立させる演劇スタイルを確立した劇作家・演出家で、個性派俳優に彼のファンは多い。
「三浦さんの、いろんな人間の感情を剥き出しにするような作風が、私の中ですごく響いたんです。嘘偽りのないリアルな人間がそこにいた。私、とにかくリアルなものが好きみたいなんです(笑)」
(菊地陽子 構成/長沢明)
篠原ゆき子(しのはら・ゆきこ)/神奈川県出身。「中学生日記」(2005年)で映画デビュー。11年、舞台「おしまいのとき」のオーディションで主役に抜擢される。14年、「共喰い」で高崎映画祭最優秀新進女優賞受賞。20年秋からドラマ「相棒」シリーズのレギュラー。主演映画「ミセス・ノイズィ」が現在まで6カ月のロングヒットを記録。アメリカ合衆国の格闘技アクション映画「モータルコンバット」が18日公開。
>>【後編/女の“業”を演じる篠原ゆき子「嘘なく演じられるか、いつも怖い」】へ続く
※週刊朝日 2021年6月18日号より抜粋