昨年の10月から今年の3月まで続いたドラマ「相棒」season19ではレギュラーに抜擢され、12月に公開された初めての主演映画「ミセス・ノイズィ」は6カ月を超えるロングランになった。昨年の夏、コロナ禍の中で撮影した2本目の主演映画「女たち」も6月1日に公開されたばかりだ。
「これまでいただいてきた役は、なんというか……女の“業”を感じさせるような役が多かったんです。とくに、『女たち』の美咲は、地方の田舎町で、派遣の仕事を切られ、母の介護に追われ、恋人に裏切られ……と、日常生活にとことん行き詰まって苦しんでいる役で。最初にいただいた台本を読んだときは、少し怯みました。リアルだし、切実なんだけれど、私にちゃんと嘘なく演じられるだろうか、と」
映画の企画がスタートしたのは2019年秋。奥山和由プロデューサーとある映画の現場で一緒になったとき、奥山さんから、「篠原さん主演で映画を撮ろう」と誘われた。
「そのときは、てっきり社交辞令だと思っていました。まさか実現するとは思っていなかったので、軽い気持ちで『ぜひ』とお返事したんですが、すぐ事務所経由でお話をいただいて。監督は誰にお願いするかから相談されたんです。驚きました」
ドキュメンタリーの手法を得意とし、12年に篠原さんも出演した「おだやかな日常」でメガホンをとった内田伸輝監督に白羽の矢が立ち、それからは、内田監督とその妻で撮影カメラマンである斎藤文さんと篠原さんの3人で、映画の内容を詰めていった。
「ファミレスで打ち合わせをしたりしながら、監督が脚本を書いてくださいました。映画には、いろんな女たちが登場しますが、私も、その登場人物のヒントになるような友人の話や、自分の体験についても話しました。内田監督は私の明るい部分も知ってくださっていると思っていたので、第1稿を読んだときはビックリしました(笑)。でも、普段自分が人に見せていない一面を引き出してくださったのだと思います」
脚本作りから携わることができたせいか、クランクインしたときは、もう役が体に染み込んでいる感覚があった。
「人間の生きる姿が焼き付いている映画です」
映画の話をするとき、照れ屋の篠原さんの顔が、誇らしげに輝いて見えた。(菊地陽子 構成/長沢明)
篠原ゆき子(しのはら・ゆきこ)/神奈川県出身。「中学生日記」(2005年)で映画デビュー。11年、舞台「おしまいのとき」のオーディションで主役に抜擢される。14年、「共喰い」で高崎映画祭最優秀新進女優賞受賞。20年秋からドラマ「相棒」シリーズのレギュラー。主演映画「ミセス・ノイズィ」が現在まで6カ月のロングヒットを記録。アメリカ合衆国の格闘技アクション映画「モータルコンバット」が18日公開。
※週刊朝日 2021年6月18日号より抜粋