親に翻弄された経験と、誰にも言えないまま心の奥に大きく残された恐怖感と屈辱と自己嫌悪は、まゆみさんの心をむしばんでいった。
「宗教をやめたいと思い始めてからは、毎日気持ちが重くて『ハルマゲドンがきて滅ぼされてもいいからやめたい』とまで思いつめて、うつに近い状態だったと思います。20年以上も神を信じて奉仕してきたのに、それを破る自分に対しても絶望的な気持ちになりました」
親に胸の内を明かすこともしないまま、カウンセリングを受けてみようと思ったが経済的な余裕もなく諦めた。
「『自分が病院に行くと宗教と親のことを話すことになる。それは神への冒涜だ』と、行きたいと思うたびに自分を説得して思いとどまりました。信者の友達に話すこともしませんでした。経典には『誰かをつまずかせる人は、大きな石を首にかけられて海に落ちるほうがまし』という記述があって、それになってしまうと思ったからです」
まゆみさんは、23歳のときに宗教から遠ざかったものの、「今まで信仰していたものは間違いだった」という発想にはならなかったという。
ただ、新しい出会いや失恋、結婚などを考えるたびに喪失感、虚無感に襲われ「かつての宗教団体に戻った方がいいのではないか」と心が揺らぐこともあった。
「好きな人ができたとしても、自分がカルト2世だと告白できず、婚前交渉NGという教えも守っていました。当然、相手の男性は怪訝に思いますよね。そんな時は、自分は何やってるんだろうと情けなくなりました」
近年はSNSを通じて、脱信者同士でコミュニティーを作り、オフ会を開いたり、そこで出会った人同士が結婚したりすることもあるという。
「私は宗教をやめて15年以上たちますが、今でも宗教にまつわることはほかの人には分からない、という気持ちがあります。また、そのことでこれ以上傷つきたくない、変に解釈されて偏見を持たれたくない、という気持ちも強くあります。だからこの話になると、子どもに戻ったかのように感情的になってしまうのです。子どもの頃から、テレビなどの世の中の娯楽には触れずに育ちましたから、今もテレビはめったに見ませんし、ニュースにも歴史にも旅行にもあまり興味がないような気がします」