チョ・ナムジュ/1978年、ソウル生まれ。梨花女子大学社会学科卒。2011年、『耳をすませば』で文壇デビュー。著書に『82年生まれ、キム・ジヨン』『彼女の名前は』など (c)Munhakdongne Publishing Group
チョ・ナムジュ/1978年、ソウル生まれ。梨花女子大学社会学科卒。2011年、『耳をすませば』で文壇デビュー。著書に『82年生まれ、キム・ジヨン』『彼女の名前は』など (c)Munhakdongne Publishing Group
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『82年生まれ、キム・ジヨン』で大きな共感を呼んだチョ・ナムジュさんによる待望の小説『ミカンの味』が出版された。ナムジュさんが作品や自分自身の変化について語った。AERA 2021年6月28日号に掲載された記事を紹介する。

【オススメの韓国文学一挙紹介】

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 幼少期から経験する数々の理不尽や不平等、女性であるがゆえの困難を描き、「私たちの物語」と大きな共感を生んだ『82年生まれ、キム・ジヨン』。その著者であるチョ・ナムジュさんの新作『ミカンの味』は、高校進学を控えた女子中学生4人の「連帯」を描いたシスターフッド小説だ。

「私は、いま自分が属している社会でどんなことが起きているのかを知り、記録し、質問することが好きなようです。これまでも、その時々に私にできる方式でそれをやってきたのだと思います」

■社会に目を向ける姿勢

 ナムジュさんは、大学で社会学を専攻し、ドキュメンタリー番組などの放送作家を10年務めた後に、作家となった。昔も今も社会へと目を向け続ける姿勢は変わらない。

 12歳の娘の母という顔も持つナムジュさんが、本作のテーマでもある教育環境、入試といった問題に関心が湧いたのは必然だったのだろう。

「『ミカンの味』は、現在の学校と家庭と入試制度を取材し、今の中学生たちに会って得た情報と資料をもとに書いています。しかし、書いている間、時代も環境も制度も私のときとはまったく違うのに、自分の中高生時代の出来事がたくさん浮かび上がりました。小説を書くことで、当時は分からなかった自分自身の状況と感情に気づいた部分があります。何げなく過ぎ去らせていた瞬間を覗いてみる機会になりました」

■少女たちの心の機微

 本作の読みどころは、現在の韓国が抱える教育の問題点を鋭く抉りながらも、自らの手で未来を掴(つか)みとろうともがく少女たちの心の機微を丁寧に掬(すく)い取っているところだろう。その一方で、働く親が抱える苦悩や矛盾に焦点を当てることも忘れていない。

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