岡野陽一(写真提供/プロダクション人力舎)
岡野陽一(写真提供/プロダクション人力舎)
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 一昔前までは、芸人が酒に溺れたり、女遊びをしたり、博打で借金を作ったりするのは当たり前のことだった。芸人は世間の人とは別の価値観で生きているものだと思われていたため、私生活がどんなに乱れていても問題はなかったし、芸人自身もそれを誇りにしているようなところがあった。

【写真】癖が強く「クズ芸人」と呼ばれるのはこの人

 だが、今ではすっかり時代が変わり、芸人にも一般人並みの品行方正さが求められるようになった。不倫をすれば激しくバッシングされ、仕事を失ってしまうこともある。たとえ芸人であっても、行き過ぎた行動は笑えないと感じる人が年々増えている。

 それでも、酒の席での失敗談や、恋愛話や性的なことを笑いのネタにするのは、やり方次第では不可能ではない。しかし、金が絡む話だけは格別に扱いが難しい。

 中でも「借金」にはネガティブなイメージがつきまとっているため、それを笑いに変えるのは難しい。明るく開き直れば「反省していない」と叩かれるし、おとなしくしていれば「深刻そうで笑えない」と思われる。どちらの道もふさがれている取り扱い注意の題材なのだ。

 そんな中で、今にわかに借金芸人として注目されているのがピン芸人の岡野陽一である。彼は1000万円以上の借金を抱える身でありながら、ギャンブルの楽しさや借金生活のことを明るく語る。

 ヘラヘラと卑屈な笑みを浮かべ、自分がクズであることを全面的に認め、地の底までへりくだる姿勢を見せる。開き直りに感じられないほど異常にペコペコしているので、そこに嫌味がない。

 最近では数多くのバラエティ番組に出演しており、そのほとんどで借金やギャンブルの話をしている。岡野から借金を取ったら何も残らない。岡野が借金で、借金が岡野で。もはや借金そのものと分かちがたく一体化した究極の借金芸人なのだ。

 岡野には独自の借金哲学がある。現在では消費者金融などの業者からは借りておらず、友人知人から個人的に借りている。大金を借りている人を「大口の友人」、少額を借りている人を「小口の友人」と語り、自分に金を貸してくれる人全員を「債権者様」と呼ぶ。貸してくれる人を徹底的に敬い、どこまでも持ち上げる。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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ギャンブル好きの岡野は勝っても負けても穏やかな境地に