ここからは、主力選手が全盛期にFAとして退団してしまうリスクよりも、大型契約後に故障や不振で不良債権化するリスクを避けたい球団方針がうかがえる。実際、現時点でエンゼルスが長期契約を結んでいる生え抜き選手はトラウトだけ。ここ数年はトラウト以外に大型契約でキープしたくなるほどの大物選手が出ていない事情もあるが、いざとなれば有力FAを他球団から獲得できる資金力も、その方針を後押ししているだろう。
とはいえ、長引くエンゼルスの低迷は現役屈指の名選手との呼び声もあるトラウトの全盛期を浪費していると批判する声も出ている(トラウトはメジャーデビューからの10年間で1シーズンしかプレーオフ出場がなく、ワールドシリーズはいまだ未経験)。たとえチームの看板選手であろうと、その選手にはトレードで強豪チームでのプレー機会を与えるとともに、若手有望株を多数獲得したうえに財政的な余裕も確保してチーム再建をドラスティックに進めるのがMLBでは定番だからだ。
近年でも2014年オフに13年総額3億2500万ドルという超大型契約をマーリンズと結んだ大砲ジャンカルロ・スタントンが、その後のマーリンズの低迷を受けて17年オフにヤンキースへトレード。19年開幕前にロッキーズと8年総額2億6000万ドルで契約延長した現役屈指の三塁手ノーラン・アレナドも、わずか2年後にカージナルスへとトレードされている。この例にならえば、トラウトといえども契約途中でトレードされる可能性もゼロとは言い切れないわけだ。
もっとも、繰り返しになるがエンゼルスは人気球団であり、裕福な球団だ。慢性的な財政難に悩まされ、ワールドシリーズ制覇の直後に主力選手を次々と放出するファイアーセールを繰り返した前科のあるマーリンズとは事情が大きく異なる。そこには、チームの主力を大事にするかどうかという人情的なものとは無関係な現実がある。生え抜きが長く活躍するチームは選手を大事にするチームで、そうでないのは大事にしないチームというレッテル張りは的外れ。そこには主力選手と大型契約を結べるだけの資金力があるかどうかの違いしかない。