東京五輪・パラリンピック開催による新型コロナウイルス感染拡大を天皇陛下が懸念されていると、宮内庁の西村泰彦長官が「拝察」していると発言したことに対し、菅義偉首相をはじめとする政府首脳は、「長官の見解」と突っぱねた。宮内庁は、内閣府の外局組織。にもかかわらず勃発した攻防戦。背景に何があったのか。
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「官邸への根回しなしにやったという意味では、まさに西村の乱だ」
首相や官房長官、五輪担当相らが火消しに走った様を、政府関係者はこう形容した。東京五輪開催の是非について、コロナ禍で国論が二分するなかで政府は強引にかじをとってきた。
そうした最中に宮内庁長官が投げた「拝察」発言は、官邸に激震を走らせた。
「爆弾」を投げた西村泰彦氏は、2019年末に長官に就任した。もともとは警察庁出身で、第90代警視総監を務めた人物だ。上皇さまが退位の意向をにじませた「お気持ち」を公表した直後の2016年9月に、宮内庁次長に就任した。
このときの人事では、「お気持ち」の公表をとりしきった風岡典之長官が退任した。これまでの長官は70歳になる年の年度末での退任が恒例であったが、数カ月の前倒し。さらに、天皇の退位をめぐる官邸と宮内庁との攻防では、風岡長官と危機管理全般を担当する杉田和博官房副長官との関係は、良好とはいえなかった。
上皇さまの「お気持ち」公表は、杉田氏が東京の不在のタイミングだった。東京に戻った杉田副長官が「天皇に会わせてくれ」と宮内庁に出向いたが、風岡長官に「官房副長官では謁見できない」と断られ、遺恨が残ったとされる。
官邸を怒らせた風岡長官は更迭されたとのうわさが飛び交った。代わって「官邸から送り込まれた」と言われた長官が西村氏だった。
宮内庁は「オモテ」と呼ばれる事務方と、天皇や皇族方の世話をする「オク」に分かれる。 内閣危機管理監を務めていた西村氏は、宮内庁の「オモテ」と言われる役人のナンバー2である次長として宮内庁に来た。平成の終わりから、宮内庁と官邸の折り合いは良好とはいえない。官邸による「宮内庁改革」の一環で送り込んだなどと言われた。