「今回は勤続5年以下の300万円を超える部分が対象になりますが、とにかく基準ができたことが大きい。それをどう拡大するかは当局しだいですから」(前出の年金制度に詳しい専門家)

 同じことは、「公的年金等控除」の税制でも起きている。

 こちらはすでに、20年に改正された。これもまた働き方の多様化を踏まえて、特定の収入にのみ適用される点が問題にされ、控除が一律10万円引き下げられた(65歳未満は最低額60万円、65歳以上は同110万円に)。また、以前は年金額が多いほど控除額も大きくなる“青天井”方式だったが、20年からは「上限額」が定められた(1千万円なら「195万5千円」)。

「これらも『数字』が可変であることを、まざまざと示す事例です。私は公的年金等控除にも風穴があいたとみています」(同)

 制度変更でいえば、企業年金も注意が必要だ。

 阿波銀行(徳島県)は4月、自行の確定給付企業年金(DB)を一部変更し、「リスク分担型企業年金」を導入した。DBは運用環境の変化による積み立て不足のリスクを基金側が負うが、リスク分担型は文字どおり、それを基金と従業員双方で分け合おうとするものだ。

 リスク分担型企業年金は17年にできた新しい仕組みで、導入企業は日立製作所や富士通などまだ少数だ。通常のDBと違って会計上、退職給付債務を考慮しなくて済む点が企業側にはメリットがあるとされる。

 阿波銀行経営統括部は、

「DBを制度変更する場合、“有期年金化”したり、確定拠出年金(DC)に変えてしまう企業が多いなか、当行は終身年金は維持することにしました。そのために、しっかり手を打つべきところには打っておこうということで、リスク分担型を導入したのです」

 とするが、従業員側のリスクが増えたこともまた事実である。阿波銀行は、地銀初という「65歳定年制」の導入と同時に企業年金のあり方を見直した。今後も、定年延長に伴って制度をさまざま変える企業が出てきてもおかしくない。

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