

「コンビニ百里の道をゆく」は、51歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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いまのこの時期、社員に賞与を支給する企業も多いと思います。経営者や上司の立場の方は「賞与査定」を行うことになりますが、この「人を評価する」ということは、とても難しいことですよね。
私が30歳前後で初めて部下を持った頃も、試行錯誤でした。「なぜできないの」「だから前にも言ったでしょ」など、今なら「上司NGワード」になる言葉を連発。うまくいかない部下の仕事を「もうおれがやるよ!」と奪ったことも。
そんなときに、松下幸之助さんの言葉に出合いました。人は誰しも、ダイヤモンドの原石を持っている。どういう原石かは、人によって違うが、自分よりも優れた点が必ずある。そこを見つけて、磨き上げ、輝かせることが上司や経営者の役目なのだ……。
目を開かされる思いでした。社員の短所、つまり「課題」を指摘してあげることも必要。でもその人の「何か輝く一点」を見つけ、磨き、課題など気にならなくなるほどに光り輝かせる方が大事だと。
人間は相手の長所よりも、短所を見てしまいがちです。しかし、本人が自分では課題だと思っている点が、組織や社会の中ではすばらしい価値である場合だってあります。
例えば「よくストレートにものを言い過ぎると言われます」と。でもそれって、すごく価値あること。それによって初めて、皆が言いにくかった組織内のおかしな常識が変わっていくかもしれない。上司の方は、そんな点も本当に大事に、伸ばしていってもらいたいと常に思っています。
それは「多様性」の話にもつながります。例えばなぜ、外国籍の人たちと働くことを大事にするか。色々な国の人たちが持つ、様々な輝く点や持っている価値を皆でぶつけ合うことで個人も組織もより輝きを放ち、強くなると思います。それこそがまさに「究極のダイバーシティー」だと思います。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2021年7月12日号

