調査では、同学会の評議員が所属する181の医療機関と、309のがん拠点病院のうち、十分な回答を得られた118施設を分析。その結果、2020年1~10月の新規患者数は1万8562人で、1年前の同時期の1万9878人と比べ、6.6%減っていた。調査をとりまとめた同学会総務担当副理事長で、大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座教授の杉尾賢二医師は言う。
「肺がんにかかる人は、年間約13万人いると推定されています。その6.6%だとすると、年間で約8600人の新規患者が診断とがん治療の機会を逃したことになります。1年間でこれだけの新規患者が減るのは通常は考えられず、明らかにコロナによる検診控え、受診控えの影響だといえます」
肺がんは死亡者数が男性で最も多く、女性も2番目に多いものの、地域や職場で行われる検診が有用ながんの一つだ。
「昨年の4~6月にかけて、がん検診がほとんどストップした。春はがん検診の最盛期。この時期に検診が止まったことが、大きな問題と考えられます」(杉尾医師)
日本対がん協会のがん検診研究グループが3月に報告した調査結果も、コロナ禍のがん検診の問題を浮き彫りにしている。
同協会は各地の支部で5大がん(胃、肺、大腸、乳房、子宮頸部)のがん検診を実施しているが、調査に回答した32の支部の延べ受診者数が、20年は19年より約173万人、30.5%も減少していた。
昨年の最初の緊急事態宣言の際、厚生労働省は各都道府県に対して、検診(健診)を原則延期するよう求める通知を出した。「がん検診は不要不急」と考えたわけだが、この通達を受けてがん検診の実施を見合わせる自治体が相次いだ。
「宣言の解除後には、検診を適切に実施するように求める通知が出され、多くの自治体や検診機関が受診者を増やす努力をしましたが、結果的に3割減となりました。この減少により、約2100人のがんが未発見になっている可能性があります」(日本対がん協会)