※写真はイメージです (GettyImages)
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(週刊朝日2021年7月16日号より)
(週刊朝日2021年7月16日号より)

 昨年7月上旬。関東圏にある医療機関の入院ベッドで、会社員の男性(79)はホッと胸をなで下ろした。この日、消化器がんの内視鏡手術を終えたところだった。

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 本当なら4月中旬に手術を受ける予定だった。しかし、かかっている医療機関で新型コロナのクラスターが発生したため、手術が延期になってしまう。主治医から電話で連絡を受けたときのことを、男性はこう振り返る。

「『新型コロナの院内感染がありまして』と報告があった後、『(治療が)3カ月ぐらい遅れても(病状は)変わらないと思います』と言われました。それで新しい手術の日程を調整しました」

 延期を受け入れたのは、信頼する主治医に「大丈夫です」と言われたから。実際、男性のがんは早期で症状もない。4~5月は仕事が忙しく、病気のことを考えるまもなく過ぎていった。そして手術の日を迎えた。

 手術からもうすぐ1年経つ。体調もよく、再発の心配もなさそうだ。

「年齢も年齢だし、がんができても仕方ないと思っていたけど、まさかコロナで治療が延期になるとは……。術後の経過も順調ですし、あの主治医のもとで治療を受けてよかったです」(男性)

 新型コロナの感染拡大から1年半。この男性のケースはやむを得ないといえるが、がんの専門家が危惧しているのが、医療機関への検診や受診控えによる、がんの早期発見や診療の遅れだ。

 国立がん研究センター中央病院長の島田和明医師は、「がんは進行すると命に関わる。コロナを怖がって受診を控えるのは危険」と、受診の遅れががんの死亡率の上昇につながる可能性を指摘した海外の報告を紹介する。

「データは昨年11月にカナダの研究で示されたもので、一部の進行の速いがんは、4週間治療が遅れると、死亡リスクが6~13%上昇することが明らかになりました」

 国内からもデータが出てきている。その一つが新型コロナの肺がん診療に対する影響をみたもので、今年5月に日本肺癌学会が発表した。

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