そりゃもちろん失敗はオンエアには乗らないし、プロであればあるほど、その技はさりげなくて、素人目には簡単そうに見えるのだから。
陶芸なんかもそうだ。
職人があっという間にろくろでつるつるっと器を成形するのを見ると簡単そうで「自分にもできそう」と錯覚してしまう。いとも簡単にやっているように見えてしまうから。
裏側から見て初めて分かることがあるのではないかと常々思っていたのだ。
そして当日。
楽屋入りすると、プリントアウトされた分厚い構成台本が置かれていて、それに目を通しながら準備を進め、打ち合わせに入る。
秒単位で細かく区切られている構成を確認。
冒頭は水卜さんの挨拶だが、そこは秒数だけ決まっていて内容はおまかせとなっている。
スタジオに入って簡単なリハーサルで立ち位置や動きを確認して、いよいよ本番。
モニターには現在の時間(秒数も)が大きく映し出されている。
ここから秒単位で色んなことが進行していくのだ。
冒頭の水卜さんの挨拶が始まった。
カメラに真っ直ぐ微笑みかけながら、秒数にぴったりおさまる心に響くメッセージ。
茶の間で見ている時よりこうして内側から見ると、「この緊張感の中でやっているのか」と技術を感じる。
しかし、その日の舞台裏はなんだかバタバタしていた。
CM中、ディレクターとアナウンサーの皆さんがわっと集まって、構成表を見ながら話し合いをし、コーナーを飛ばしたり、順序を変えたりなどの変更が加わった。
そして頻繁に、太平洋側に発生している線状降水帯についての情報が挟み込まれた。
「◯◯のコーナー飛ばして◯◯先に持ってきます。で、ここで定点カメラの映像入れます」
などなど、フロアでディレクターが指示してアナウンサーの皆さんと共有。
水卜さんは構成台本をめくりながらシャッとペンでチェックを入れていく。
「ここで、静岡の現在の雨の様子をお伝えします」
台本にはないトピックが挟まれる。
画面には街中の交差点の定点カメラの映像が映し出され、水卜さんがそれを見ながら状況を1分ほど、アドリブでよどみなく、とうとうと伝えながら注意を呼びかける。