林:私も一度お目にかかったことがあります。「山口洋子さんのお別れの会」のときに。
桜木:初めて会った麻紀さんは、いすに座った体がS字を描いて、組んだ脚の先まできれいだったんです。「ああ、この人が」と思って、私、涙が出ました。
林:カルーセルさん、うれしかったでしょうね。
桜木:間違いなく彼女は、私自身がもう一つステップアップするためにあらわれた人でした。どの資料やインタビューを読んでも、麻紀さんは判で押したように同じことしか言ってない。でも、こう言わなければならなかった時代と裏側を書きたいと思ったんです。それで、「小さいときからの疑問を、私の解釈で書いてもいいですか? ウソ書きますけど、いいですか?」って言ったら、「いいわよ。汚く書いて」って。
林:ぜんぜん汚くなかったです。
桜木:そうですか。だとすれば、失敗か成功のどっちかだと思います。フィクションでしか描けない人っていると思うんですよね。彼女自身が虚構を生きているので、あえてフィクションで書かないと一行も本当のことが出てこないような気がして、すべて私が想像で書きました。だけど、ときどき本当のことがあるらしくて、「この話、したっけ?」って聞かれるんです。そのときは「やった!」と思って。
林:次の新刊のご予定は?
桜木:6年間もかけてようやく短編が10本たまったので、『ブルースred』が9月に出ます。そのあと、『緋の河』とは別に、カルーセルさんが(性器を)チョン切っちゃったあとのお話も独立して書いたので、それが出ます。
林:北方謙三さんが「文体を整えるために短編をたまに書かなきゃダメだ」とよくおっしゃってるし、角田光代さんの「私は千本ノックを課すように短編を書いてきた」という言葉に感動しましたけど、今、若い作家の人、月刊の小説誌に書きたがらないんですって。原稿料安いし地味だし、みたいな気持ちがあるみたいで。
桜木:月刊の小説誌の原稿料、安いんですか? そういえば原稿料の話、誰ともしたことない。最初に原稿料の話をしてから仕事をしたことないですもんね。