金正恩総書記は11月18日、娘とともに「火星砲17」の試射を視察した(photo Office of the North Korean government press service/UPI/アフロ)
金正恩総書記は11月18日、娘とともに「火星砲17」の試射を視察した(photo Office of the North Korean government press service/UPI/アフロ)

■「ロイヤルファミリー」

 金正恩氏が私生活を明らかにする理由は幾つか考えられる。

 第一には、乱れた女性関係を続けた父親への反発が考えられる。母、高英姫氏は生前、公の場所に出られなかった。プライベートを明らかにするのは、父親とは異なり、世間に対して恥ずかしくない私生活を送っていると主張したいのかもしれない。

 第二に、「愛民政治」と呼ばれる、指導者と一般市民との距離を近づけるイメージ戦略の一つかもしれない。正恩氏が現地指導の際、視察先の関係者と腕を組んで写真を撮るなど、スキンシップを重視した演出が繰り返されている。

 そして、第三に、日本の皇室や英国の王室をモデルにした「開かれたロイヤルファミリー」を目指している可能性がある。北朝鮮は従来、最高指導者の神格化を進めるにあたり、日本の皇室やタイ王室などの資料を数多く入手し、研究を進めた。「歴史の浅い北朝鮮の最高指導者が、一般市民から敬愛されるためには、どうしたらよいのか」という悩みがあったからだ。

 例えば、戦前の日本で、教育現場などに御真影(天皇の肖像画や写真)が掲げられたことを参考に、金日成主席や金正日総書記の肖像画を公共機関や各家庭に設置したという。「火災から御真影を守るため、我が身を犠牲にした」という戦前の日本で実際に起きた事件を参考に、同じストーリーを積極的に美談として宣伝してもいる。

 そして、最近は「開かれた王室(皇室)」が世界の流行になっている。奥の院に閉じこもっているよりも、ある程度、プライバシーを公開した方が、市民から親しみを持ってもらえるという計算があるのかもしれない。

■弱い指導者という側面

 ただ、一連の動きは、金正恩氏の「弱い指導者」という側面も浮き彫りにしている。正恩氏は側近集団と共生関係にある指導者だ。闘争して権力をつかんだわけではない正恩氏には、人脈や実績が不足している。側近集団は、権力の座に就くための正統性を持っていない。このため、正恩氏が側近たちに対し、「建国の父である金日成主席の血統を奉る集団」という大義名分を与え、側近たちが正恩氏に「人脈や経験」を提供するという構図ができあがっている。

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