――といっても、今回のオリンピックは無観客です。盛り上がるでしょうか?
吉岡 われわれはいま日本にいるのに、“二刀流”大谷翔平の大活躍をテレビで見るだけで熱狂しているじゃないですか。私も、だけど(笑)。
だいたいオリンピックはテレビで見るものですよ。私は1996年のアトランタ・オリンピック期間中、ずっと現地にいて見てまわっていましたけど、全然おもしろくなかった。陸上競技場に行くと、あっちでは三段跳び、こっちでは100メートル走、そっちでは砲丸を投げて……と、そこらじゅうで競技をやっていて、きょろきょろするばかり。体操も床運動、つり輪、鉄棒、跳馬、平行棒、みんないっせいにやっていて、そこここで歓声が上がるんだけど、何が起きているのかさっぱりわからない。マラソンなんか、あっという間に通り過ぎてしまう。集中してじっとなんか見ていられません。
現代人がスポーツで盛り上がるのはテレビや新聞のおかげなんです。無観客であっても、テレビが絶叫する感動的なシーン、新聞が書き立てる日本人選手の活躍があれば、それで十分。今回もきっとがんばる選手が出てきますからね、そこらじゅうから「ガンバレ、ニッポン!」の声が湧き上がると思いますよ。
そうやって声なき声が内向きになり、ひとつになっている限り、権力は安泰なんです。
――では、菅政権も支持率低迷から抜け出せますか?
吉岡 JOC(日本オリンピック委員会)は金メダル30個獲得の目標を取り下げたみたいですけど、それに近い数字だったり、期待されてきた選手が期待通りの成績を収めたり、意外な選手がメダルを獲得したらそうなるでしょうね。どれだけ感動的ドラマが生まれるかにかかっている。
――まるで政権の命運を、オリンピック選手が握っているようです。
吉岡 結果的には、そう。
だいじなことは、日本の政治が、こういう国にしましょうという理念や、コロナ対策はこうすべきだという政策の議論や争いによって変わったためしがないということ。国会でもマスコミ論調上でも議論はさかんに行われているし、世論調査でも政策の是非はしょっちょう問われている。でも、どんなに不評の政策でも、それが理由で失脚した権力はないんです。