元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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先日来、ひょんなことから中学卒業以来の絵を描くことになり、全国巡回展にちゃっかり参加してその絵を売るという暴挙に出たんだが、それはさておき、グッズも売って良いと言われたので、もう捨てるしかない使い古しの服やハギレを端の始末もせず並縫いでザクザク仕上げたエプロンを500円で売った。
で、絵より何よりこれが圧倒的にウケて、納入するや否やサクサク売れる。その売れ方がどうも普通じゃない。ちょうどエプロンが欲しかったとか、デザインが素敵とか、そのような通常の冷静な判断基準ではなく、まず異形の布に「何これ?」となり、シャツの袖だのソックスの先っぽだのが強引に縫い合わされているのを見て笑い、どれどれと試着してまた笑い、その勢いで買われていく感じ。
実はこのエプロンを作っては売り5年以上になるが、その感じはずっと同じだ。モノの売れない時代とは思えぬ好反応に、私のハイパーなセンスのなせる技かと鼻を高くしていなかったわけじゃないんだが、今回の展示である画家の方が「これは、廃品を使って人の心を動かすインタラクティブアートだね」と。聞き慣れぬ言葉なので調べると「観客を何らかの方法で参加させる芸術の一形態」とあった。
なるほど。ストンと腑に落ちるものがあった。
このエプロンに反応する方は、エプロンそのものより、捨てられるはずのものがこんな風に、シロートの並縫いだけでまさかの表舞台に再登場してきたことに反応しているのだ。モノを買っては捨てるストレス、気づけば自分自身も世の中で使い捨てにされかねない悲しみ、いろんな思いがないまぜになり、そこを飛び越えて目の前に登場した妙なエプロンに、他人事と思えぬ共感のようなものを感じておられるのではなかろうか。
何しろそれは私の祈りでもある。捨てるもので何かを作ることで、私だってまだまだ捨てたもんじゃないと自分を励ましているのだ。なるほどアートって人と潜在意識で繋がるってことだったのか!
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2021年7月19日号