フォトジャーナリスト 安田菜津紀さん(34、左):1987年生まれ。NPO法人「Dialogue for People」副代表。著書に『写真で伝える仕事』など/フリーライター 武田砂鉄さん(38):1982年生まれ。著書に『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』など[写真/大野洋介(安田さん)、岡田晃奈(武田さん)]
フォトジャーナリスト 安田菜津紀さん(34、左):1987年生まれ。NPO法人「Dialogue for People」副代表。著書に『写真で伝える仕事』など/フリーライター 武田砂鉄さん(38):1982年生まれ。著書に『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』など[写真/大野洋介(安田さん)、岡田晃奈(武田さん)]
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緊急事態宣言下で東京五輪がはじまる。開幕前からすでに東京のコロナ感染者は増加の一途をたどっている(撮影/写真部・張溢文)
緊急事態宣言下で東京五輪がはじまる。開幕前からすでに東京のコロナ感染者は増加の一途をたどっている(撮影/写真部・張溢文)

 感染拡大が懸念されてきた東京五輪開催。それでも、政府は場当たり的な対応を繰り返しながら、開催に突き進んできた。AERA 2021年7月26日号で、フリーライターの武田砂鉄さんと、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、政府の姿勢に疑問を呈する。

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安田:間もなくオリンピックが開催されようとしていますが、開催にいたるまでのプロセスそのものがマチズモ(男性優位主義)のかたまりみたいになってしまっていますよね。とにかく何が何でもやる、異論は認めない。異論を言う人間は言うことを聞かせる対象だということが浮き彫りになってきました。

 以前、菅義偉首相が記者会見で緊急事態宣言でもオリンピックをやるのかという問いに対して、最終的な決定権はIOC(国際オリンピック委員会)にあるということをひたすら繰り返すという質疑応答がありました。最終的にIOCが決めるんだとしても、人命とか生活とかそういったものに必要な提言をするのが政治責任であって、いつから東京都はIOCの植民地になったんだろうか、それにいつからIOCは、市民の声や自己決定権を超越する存在になっていったんだろうというのはずっと感じてきたことです。

■いまさら批判するな

武田:最近、五輪開催を問うトークイベントを開いたんですけど、話していると、内容が小学校の学級会みたいな感じになってくる。「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」を守りましょう、大変な思いをしている人の話を聞きましょう、嘘をつくのはやめましょう、みたいなところに行きつくんですよね。私は、様々な事象を皮肉っぽく捉えて書くことが多いんですが、オリンピックに関しては、自分の指摘が素直で、「ヤバいな、ちゃんとしたことしか言ってない。これでいいのか」って思ってしまう(笑)。自分の発言や書いていることの正しさ、つまらなさに驚いてしまうことがあります。

安田:緊急事態宣言中でもオリンピック開催とのことですが、これまで場当たり的な対応ばかりですよね。これまでも、パブリックビューイングを企画します→批判される→やめる、オリンピック会場でアルコール販売を認める方針を示す→批判される→やめる。そもそもこういう批判の声って予想できる範疇だと思うんですが、場当たり的にやってみて批判されたからやめようみたいな図式を見ていると、海外から何万単位でやってくる方々への感染対策などができているとは到底思えません。でも今はこういう声をあげると「いまさら批判するな」みたいな空気感がじわりじわりとできてしまっていて、そういう怖さみたいなものがあります。

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