陸上選手で、東京五輪日本選手団主将に抜擢された山縣亮太さんがAERAに登場。五輪開催を見据える彼に、現在の思いを聞いた。AERA2021年7月26日号から。
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度重なるけがを克服して勝ち取った3度目の五輪出場権。山縣亮太は、100メートルで89年ぶりの決勝進出を目指すとともに、異例の状況下での大会に新しいスポーツの形を見据える。
撮影は梅雨の晴れ間を縫って、陸上競技場で行われた。2011年以来、今も練習拠点にしている競技場には「1レーン、1レーンすべてに思い出があります」。
グラウンドに行きたくない、と思ったことはないという。ただ、昨年、痛めた右足首が治らず走れない時は「何のためにここに来ているのか……」と沈んだ日々があった。そんなけがを乗り越え、今年6月、100メートルで9秒95の日本新記録を樹立した。日本選手権では、優勝こそ逃したものの3位に入り、3大会連続の五輪代表を決めた。
日本選手権の100メートルは史上最高レベルの戦いと言われた。事実、4年前に日本選手として初めて9秒台をマークした桐生祥秀は5位に終わり、代表の座を逃した。レース後、呆然とする4歳下のライバルと軽く手を合わせた。
「声をかけるべきか、でも、それもはばかられる心境でした。自分も代表を逃した経験があるので、すごく気持ちが分かる。相当悔しいだろうなと」
これまで2度の五輪では、いずれも自己記録を更新した。「その時の自分に必要な課題を見つける、パズルの最後のピースを探すような作業を粘り強くやった結果です」。東京五輪に向けて「まだ2、3個は残っている」というピースがきっちりはまれば、1932年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳以来の決勝進出も見えてくる。
日本選手団の主将を務める。ほぼ無観客が決まった祭典だが「そもそも開催していただけること自体がありがたい。いろんな意味で記憶に残るような大会になればいいですね。スポーツの見せ方も変わり、節目になる大会になるのかな」。視界良好とはいかないが、確かに道は見えている。
(朝日新聞記者・堀川貴弘)
※AERA 2021年7月26日号